2020年1月にラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「CES」で初公開した
プロジェクトには欧州を中心に多数の部品サプライヤーがパートナーとして参加。ブレーキはブレンボが供給する

 自動車業界に大きな衝撃を与えたソニー製の電気自動車(EV)「ビジョン―Sプロトタイプ」。試作車にはソニーが強みを持つ画像センサーを中心に計40個のセンサーを搭載し、オーディオやビジュアル、エンターテインメントコンテンツも武器にして自動運転社会を見据えた新しいモビリティを創造する構えだ。現在、開催中の「人とくるまのテクノロジー展2021オンライン」の基調講演で、ソニーグループの川西泉執行役員がビジョン―Sの開発経緯や車両概要などについて語った。

 なぜソニーが新しいモビリティを提案するに至ったのか―。その伏線は携帯電話・モバイル業界で起きた大きな構造変化にある。引き金を引いたのがスマートフォン(スマホ)の登場だ。

 アップルとグーグルによって規格化されたハードウエアとOS、ソフトウエア、その上で動く数多くのアプリケーションは、人々のライフスタイルだけでなく、携帯電話メーカーの立ち位置にも大きな影響を与えた。川西執行役員は「従来のものづくり的な垂直統合型のモデルからIT業界の水平分業のモデルに移り、携帯電話メーカーの勢力図が激変した」と指摘する。その経緯が、今の自動車業界が直面している100年に1度の大変革とシンクロしたことで、ビジョン―Sプロジェクトの発想につながった。

 川西執行役員が「ハードウエアとしてのクルマの位置付けが変わろうとしている。モバイルに続くメガトレンドはモビリティになる」と指摘する通り、自動車は〝モビリティ〟へと進化を遂げようとしている。その中で、「ソニーはどんな貢献ができるのか、もっと深く探索すべきではなかとの考えに至り、ビジョン―Sプロジェクトをスタートさせた」と振り返る。

 ソニーは、テレビやカメラ、スマホといったエレクトロニクス商品だけでなく、画像センサーをはじめとするセンシングデバイス、映画や音楽、ゲームといったエンターテインメントコンテンツ、サービス、技術などを手がけている。同時に、ハードウエアとソフトウエア、クラウドサービスを組み合わせることで、人々のライフスタイルに寄り添う数多くのプロダクトやサービスを提供してきた。

 ビジョン―Sは、ソニーが持つこうした多彩なテクノロジーの融合体だ。公道を走る自動車として求められる安全基準や法規制をクリアした上で、「ソニーらしい移動空間をいかに作り出すかについて深く議論してきた。モビリティという移動空間における新しいユーザー体験を提供したい」(川西執行役員)と意気込む。

 その実現に向けて採用した開発アプローチが「車とIT技術の融合」だ。川西執行役員はハイスペックなSoC(システムオンチップ)の採用が増える現在の自動車について、「ハードウエア構成をシンプル化し、ソフトウエアによって実装できる部分が増えている」とみる。また「クラウドとのコネクティビティーを確保することでソフトウエアのアップデートが可能になり、車両購入後も進化を続けられる」とも指摘する。

 これこそが車とITとの融合に他ならない。ソニーは「従来とは異なるアプローチで、ソフトウエアを起点に車をデザインする」(川西執行役員)という考えをビジョン―Sの開発に反映させた。

 自動車としてのビジョン―Sは電気駆動の100%EVだ。シャシーはモーターやバッテリーなどの動力系、ステアリングとサスペンション、ブレーキなどの操舵系をEVプラットフォームとして構築。川西執行役員は「ビジョン―Sのようなスポーティーなクーペスタイルだけでなく、SUVやワンボックスなどさまざまな車種にも適用できるよう設計した」と明かす。

 ビジョン―Sは、自動車の進化をソフトウエアがけん引し、クラウドと統合したE/E(電気・電子)アーキテクチャーをシステムプラットフォームとして採用する。テレマティクスや先進運転支援システム(ADAS)、車両制御、ヒューマン・マシン・インタフェースなど複数のドメインコントローラーで構成されており、すべてのシステムはセキュアゲートウェイを通じてアクセスできる仕組みを整えた。

 各ドメインコントローラーとセキュアゲートウェイはイーサネットで接続されており、それぞれ要求帯域に応じて通信速度は変わるものの、基本的には1㌐bpsでつながっているという。

 EVプラットフォームとE/Eアーキテクチャーを併せ持つビジョン―Sだが、「ソニーのエンジニアが自動車のシャシーを開発する経験は皆無に等しく、設計プロセスなど多くのことを学ばなければならなかった」と川西執行役員は打ち明ける。

 そこで協力を仰いだのがオーストリアのマグナシュタイヤーだ。車両製造は同社が担い、このほか、ボッシュやコンチネンタル、ヴァレオ、ブレンボ、エヌビディアなど多くのサプライヤーがビジョン―Sのパートナーとしてプロジェクトに参加している。