衝突エネルギーを部品の変形によって吸収する必要があるフロントサイドメンバーなどには590㍋ パスカル 級の鋼板が使われることが多い
マルチマテリアル構造の断面図
マルチマテリアル構造は従来構造に比べて緩やかな蛇腹の変形を行うことで、変形が先端に集中することなく母材の破断を回避できる

 JFEスチールは、超高張力鋼板(超ハイテン材)を自動車のエネルギー吸収部品に適用できる新しい構造を開発した。1470㍋ パスカル 級の超ハイテンと軟鋼板の間に樹脂を挟み込む「マルチマテリアル構造」によって自動車の軽量化と高い衝突安全性を両立できる。防音材や制振材などを手掛けるイイダ産業(飯田耕介社長、愛知県稲沢市)と共同開発した。衝撃エネルギーを部品の変形によって吸収するフロントサイドメンバーやリアサイドメンバーといった部品にマテリアル構造を採用することで、超ハイテン材を適用できるようになる。

 自動車の衝撃エネルギー吸収部品は、一部で980㍋ パスカル 級の高強度材料が使われ始めているが、多くは590㍋ パスカル 級の材料が採用されている。高強度材料は変形しにくく、衝撃エネルギーを十分に吸収することができないためだ。

 今回、同社が1470㍋ パスカル 級の超ハイテン材の適用を目指すのは、車両電動化の進展を背景に、骨格部品だけでなく「衝突エネルギー吸収部品においても軽量化のために薄肉、高強度化したいというニーズが強まっている」(同社)ことに対応するためだ。

 今回開発したマルチマテリアル構造の特徴は、超ハイテン製のアウターパネルと薄肉軟鋼板製のパッチで樹脂を挟み込み、板厚を厚くしている点にある。これによって衝撃時の変形角度を緩やかにし、超ハイテン製の部品で発生していた母材の破断を回避することができる。

 同社はエネルギー吸収部品に超ハイテンを適用する構造開発に際し、延性の低い母材の破断をいかにして回避するかという課題に取り組んだ。 従来構造では、アウターパネルに超ハイテンを使い、これにインナーパネルを接合して閉断面の骨格構造を構成していた。この構造では衝撃を受けた際、変形によって曲げられた部分の先端にひずみが集中するため、母材の破断限界を超えてしまう。

 今回、開発したマルチマテリアル構造は、アウター側の超ハイテンパネルの内側に軟鋼板で作った薄いパッチを配置する。両鋼板の間には樹脂のサンドイッチ構造を採用した。高延性の樹脂を鋼板の間に挟むことで板厚が増す。これによって緩やかに蛇腹で変形することで、衝撃エネルギーが先端に集中することなく破断を回避できる。

 1470㍋ パスカル 級(1・4㍉㍍)の超ハイテン材にマルチマテリアル構造を適用した場合、同じ重量の590㍋ パスカル 級の材料に比べると、エネルギー吸収量を53%向上し、25%の軽量化が図れるという。

 また、樹脂との複合構造のため、部品として制振性を確保できるという特徴もある。社内のインパクトハンマー打撃試験では、マルチマテリアル構造では振動が大きくなる周波数が高周波数側にシフトすることが明らかになったという。

 これにより車内のこもり音の要因となる骨格やパネル、サスペンション共振、駆動系振動など、低周波域から高周波域に移ることで共振を避けることができ、EVに求められる静粛性の向上にもつながることにもなる。

 今後、EVへの採用を視野に入れ、自動車メーカーとの共同開発を進めていく計画。量産化に向けた検討に入るとみられるが、マルチマテリアル構造の製造、組み立てに当たっては既存の車両製造工程との親和性も考慮する必要があるという。

 アウターパネルとパッチ、インナーパネルは、事前にプレス成形し、その後の組み立て工程で、樹脂を塗布してアウターパネルにパッチを接着、インナーパネルと固定する。この工程について同社は「従来の構造用接着剤の塗布工程と同じ工程を踏むため、従来の組み立て工程の中で製造の対応が可能」と説明する。

 同社がマルチマテリアル構造の開発を進めるもう一つの背景が「EVが普及するにつれ、高いエネルギー吸収構造が求められる」(同社)ことだ。特に、自動車メーカー各社が開発しているEV専用プラットフォームは、航続距離を伸ばすために大型バッテリーケースの搭載を前提としており、車体骨格はケースを避けるように配置されるケースが多い。また、エンジンが搭載されないため、フロント部分は短くなる傾向にもあり、こうしたショート構造の車体は、より狭い空間で衝撃エネルギーを効率的に吸収する構造が必要だ。

 さらに、EV化によってエンジンから生じる振動がなくなるため、乗員は走行時の振動に敏感になる。そのため従来以上に振動低減機能が求められることになる。

 同社は、車両電動化に伴うさまざまな課題解決にマルチマテリアル構造が有効に機能すると判断し、特にEVへの適用を視野に入れて量産開発に取り組む。すでにサンプル出荷を始めており、今後、性能評価や製造工程でのコストを検証するなどして、25年の実用化を目指す。