自動車整備業界は今後、大きく変貌する可能性を秘めている。自動車の技術革新に伴い、さらなる先進運転支援システム(ADAS)搭載車種の拡充と機能進化は間違いなく進行する。将来的には完全自動運転車の走行も予想され、新車ディーラーや整備事業者がその整備を担うことになる。
こうした先進機能の進化に合わせて昨春には道路運送車両法が改正され、新たに「特定整備」制度がスタートした。行政サイドでは今後も技術進化に合わせて新たな制度を相次いで導入する予定。これと並行して進めていくのがデジタル化、ペーパーレス化だ。自動車行政に関する多種多様な手続きの簡素化を進めていく。
自動車業界の変化スピードは速く、先進技術の開発は急ピッチで進んでいる。しかし、これまでの整備事業者の技術革新に対する認識には温度差があり、全社が前向きに取り組んでいるとは言い難かったのが実情だ。
こうした状況を打破すべく昨年からスタートしたのが特定整備制度だ。新たにADAS搭載車のエーミング(機能調整)作業を実施する「電子制御装置整備」認証も導入された。資格を取得するにはさまざまな要件が定められている。その中で、エーミングを行うための施設要件、スキャンツールの保持などが求められている。
特定整備には経過措置があり、2020年3月までにエーミング実績があれば、24年3月までも特定整備対象車の整備を行うことが可能だ。20年はコロナ禍で、認証取得に必要な整備主任者資格講習会が全国各地で延期を余儀なくされたことから取得者数は伸び悩んだ。今年以降、取得者数が拡大することが見込まれる。
21年10月(輸入車は22年)からは「車載式故障診断装置(OBD)車検」がスタートする。実際に対象車種が入庫するのはその3年後。整備工場が法定スキャンツールを用いてインターネット経由で独立行政法人自動車技術総合機構のサーバーに接続し、故障コード情報の送信と判定結果の受信を行って合否を判定する仕組み。
こうした取り組みを通じ、国として各事業者に電子的な自動車整備実施を促している。このため、昨年まで「スキャンツール補助金」制度を用意し、新たな機器導入をサポートしてきた。
社会全体でデジタル化が進展し、生産性向上のためにペーパーレス化が進む中で、自動車業界ではいち早く05年から自動車保有関係手続きのワンストップサービス(OSS)が導入されている。自動車登録、検査に関する手続きをインターネットを介して行えるようにした手法で、現在では新車新規、継続検査などで活用が進んでいる。
さらに、国土交通省は23年をめどに「自動車検査証の電子化」を目指している。紙ベースの車検証をA6サイズ程度の台紙にICタグを貼り付ける方式で電子化する。事業者にとっては車検の手続き申請で、記載事項の変更を伴わない場合に運輸支局を訪れる必要がなくなる。これにより、OSSの利用率向上が見込まれている。
電子化した車検証に車両情報を格納することで、整備履歴の検索が容易になる。自賠責保険情報も記載できるため、ユーザーの利便性向上や関連事業者の業務効率化が期待できる。
さまざまな付帯サービス付与導入も視野に入れる。ガソリンスタンドなど民間事業者の会員証と統合した複数のポイントカードの1枚での管理、走行履歴で旅行先へのインセンティブ付与、スタンプラリーのような旅の記録簿などのアイデアが挙がる。車検証は自動車に搭載するため、入れ忘れる心配がなく、サービスが実現した際の利用率は高くなりそう。一連の取り組みを通じ、地域振興や観光振興にも結び付ける。