轟木光ディレクター

 自動車メーカーがリチウムイオン電池(LIB)の調達拡大に動いている。ホンダが中国の寧徳時代新能源科技(CATL)に出資したほか、日産自動車も中国で調達先を広げている。電動化とパワートレインの今後についてPwCコンサルティング合同会社の轟木光ディレクターに聞いた。(小室 祥子)

 ―自動車メーカーがここへきて電池の確保を急いでいます

 「理由はいくつかある。まず中国の新エネルギー車(NEV)規制や欧州の二酸化炭素(CO2)排出規制だ。これらの規制に対応するために行ってきたことが一つひとつ現れ始めている。2つ目は電池の供給が需要に対して足りないという課題が出てきたことだ。競争力あるコストを実現するには調達先を広げる必要があり、それが資本提携や新規開拓となって現れてきている。3つ目はいま欧州では電気自動車(EV)が売りやすい環境にあることだ。新型コロナウイルスの感染拡大によって落ち込んだ新車販売を促進しようとドイツなどがEVにインセンティブをつけている。電池争奪戦とも言える状況の背景にはこの3つがあると考えている」

 ―電池が足りない状況は続きますか

 「供給が需要を上回る逆転現象がそのうち起きる。その一端が見えているのが、10年間に総額1兆 ユーロ (約125兆円)を投資する欧州のグリーンディール政策で、このうち2千億 ユーロ はモビリティ分野に投入されると言われている。その獲得を目指した投資が盛んに検討されており、欧州に500㌐㍗時程度の電池工場ができるという試算がある。これは欧州だけでは消化できないかもしれない量だ」

 ―電池の需給が不安定な中でEV市場は健全に成長しますか 

 「当社では2030年に世界の新車販売の40%がEVになると試算している。EV市場が健全に成長していくことは間違いない。ただ、その間に電池が供給過多になる可能性は否定できない。今後、電池メーカーが雨後の筍のように出てくると予想される。いずれは適正な数のプレーヤーに落ち着くだろう」

 ―生き残る電池メーカーの条件は

 「規模がポイントになる。いかにコストを下げられるかも重要だ。またSDGs(持続可能な開発目標)に則った会社政策を描くことも必要になる。走る時だけでなく、電池の製造段階でもCO2を出さないゼロエミッション工場であることが条件になるということだ。EVの環境性能はライフサイクル全体で考える必要があるという機運が高まっている」

 ―日本の電池メーカーは量では中国メーカーにかないません

 「闘い方が難しいが、勝ち方はある。それは、電池ビジネスを半導体産業のように開発と製造に完全に分けることだ。半導体はモバイル機器に搭載されるようになってから、高性能であることはもちろん省電力であることが重視されるようになった。その一方、コストも重要だ。性能とコストという相反する要求を両立するため、半導体業界は規模をとことん追う企業と、開発に特化し性能をとことん追う企業とに分かれ、サプライチェーンで完全につながることによって成り立っている。電池も全く同じ状況だ」

 ―日本はどちらの道を選ぶべきでしょうか

 「日本は開発で大きなアドバンテージがある。開発を強化し、製造は適材適所でふさわしいパートナーを見つけていくやり方がふさわしい。LIBの開発は日本から始まったもので、それが次世代の固体電池の開発にもつながっている。製造ライセンスを渡す知財ビジネスによって高い利益率を確保し、それを次の開発に投資していくことで、日本は新しいものをどんどん開発していける。今はどの電池会社も両方やっている。欧州グリーンディール政策が始まった今が決断するのに一番いいタイミングだ」