潜在的なニーズを引きだすために使った画像の例
新型フィット
心地よいを目指した新型フィット

「目指したのは“心地よさ”」―ホンダが2月14日に発売した4代目となる新型「フィット」は、先代モデルで重視してきた低燃費性能や広い室内空間といったクルマの機能性ではなく「人の感性」に訴えるクルマづくりにこだわった。自動車メーカーでありながら「人を研究する変人」を抱えるホンダだからこそ実現できたという。そこにはホンダ創業者の本田宗一郎氏が重視した「人研究」の想いが企業風土として受け継がれている。

「3代目フィットまでは機能に特化して進化してきた。機能の進化も大切だが、それだけでは受け入れられない。顧客の潜在的ニーズを捉えて新たな価値を提供したい」―新型フィットの開発責任者である本田技術研究所・オートモビルセンターの田中健樹氏は、4代目フィット開発に当たっては消費者の潜在的ニーズを把握して「クルマを使う人が心地よいと感じるクルマづくり」にこだわったという。

消費者の潜在的ニーズを把握するために活用したのが、ホンダグループで長年続けてきた「人研究」だ。なぜ、自動車メーカーであるホンダが人を研究しているのか。

「私は研究所におります。研究所で何を研究しているのか?私の課題は技術ではないですよ。どういうモノが人に好かれるかという研究をしています」という創業者の言葉が残されている。「人を知ることはホンダのものづくりの根源」という企業風土によって自動車メーカーでありながら人を研究する「変人」が存在する。

新型フィットの開発に当たっては、人の研究の一環として約5年間研究してきた消費者の潜在ニーズを引きだす手法を活用した。そのやり方は、風景や動物、施設など、クルマに全く関係ないものを含めて約2000枚の画像の中から650枚程度を抽出し、この中から消費者に好きな画像やリラックスできる画像、不安を感じる画像などを選択してもらって、選んだ理由などをヒアリングする。フィットの開発では日本、インド、タイ、米国、インドネシア、中国、ブラジル、英国の消費者1200人に回答してもらった。結果をアナログ解析することで、消費者にクルマそのものを評価してもらわなくても、コンパクトカーに何を求めているのか把握できるようになったという。

評価結果から女性は「コンパクトカーの基本性能は評価せず、雰囲気やライフスタイルに合うかを重視する」傾向が強かった。実際、機能性を重視した3代目フィットは女性ユーザーから支持が得られなかったという。コンパクトカーの潜在的なニーズから、コンパクトカーに対する潜在的な不満を差し引いたものが「本来のクルマの価値」で、新型フィットはこの考え方に沿って「心地よいクルマ」を目指して開発した。

潜在的ニーズの調査で多かった「心地よい視界」を確保するため、パノラマフロントウインドウを採用した。同じく潜在的ニーズの多かった「乗り心地」ではフロントシートを体幹を支えて疲れにくくする構造や、クッションを厚くした高密度クッションを採用した。「使い心地」を向上するため、電動パーキングブレーキを標準化することで、フロントシート間のスペースにテーブルコンソールを装備し、自由な空間を確保した。

自動車メーカーが新車を開発する場合、現行モデルのユーザーや、一般消費者にニーズに対するヒアリングや、実車を使ったクリニック(調査)を実施する。ホンダでは、画像を使った潜在的なニーズの調査方法で「通常の調査方法では分からないニーズが見えるようになった。調査会社に依頼していたら分からなかった」(田中氏)という。画像を使った消費者の潜在的なニーズの把握は、普遍的な部分以外をアップデートすればコンパクトカー以外にも活用できる。

長年にわたる「人の研究」が自動車開発に直接生かせるようになったホンダ。本当に消費者の潜在的なニーズをつかめているのかは新型フィットの評価にかかっている。