従来のスーパーコンピューターを凌ぐ「量子超越性」を証明したとする米グーグルの量子コンピューター

 次世代の超高速計算機、「量子コンピューター」の実用化が視野に入ってきた。米グーグルが昨秋、スーパーコンピューターで1万年かかる計算を3分半で解いたと発表し、注目を集めた。将来をにらみ、実は自動車産業の一部でも利用が始まっている。

(畑野 旬)

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■「量子効果」を計算に使う

 量子コンピューターの明確な定義は実はまだ確立していない。玉石織り交ぜた情報が氾濫するのもそのためだが、極めて微少な世界で起きる「量子効果」を応用したコンピューターの総称だ。

 一般的なコンピューターは0と1だけで数値を表す2進数を用いる。最小計算単位は「ビット」だが、4 ビット の計算だと、16通り(2の4乗)の組み合わせをすべて計算していく。これまでは計算速度を上げるためCPU(中央処理装置)の集積度を上げたり、並列処理したりしてきたが、発熱対策などで計算速度が思うように上がらなくなり、原理が異なる量子コンピューターが注目され始めた。

 量子効果のひとつに、同時に2つの特性を持つ「重ね合わせ効果」がある。つまり、0と1の状態を同時に示せるため、2進数の4量子 ビット なら16通りの計算が1回で済むというわけだ。

 量子効果には「もつれ効果」「トンネル効果」などもあり、量子ビットの実装方法や構成などで様々なタイプの量子コンピューターが開発されている。グーグルや米IBMが取り組んでいるのは、汎用性が高い「量子ゲート方式」。NECやカナダのベンチャー企業、「Dウエーブ・システムズ」は超電導技術を利用し、用途を絞り込んだ「量子アニーリング方式」だ。現在はゲート方式よりアニーリング方式の方が実用化が早いとみられている。

■注目される理由とは?

 従来とはケタ違いとは言え、単に計算が速いだけの量子コンピューターがなぜ期待されているのか? 豊田通商の電子事業統括部エレクトロニクス技術・投資戦略グループで量子コンピューターに携わる粟島亨さんは「世の中のデータが爆発的に増えるからだ」と説明する。

 スマートフォンやコネクテッドカー、IoT(モノのインターネット)機器や人工知能(AI)技術…調査会社によると、2025年に世界で生み出されるデータの量は163ゼッタ バイト (約163兆㌐ バイト )。16年比で10倍という途方もない量になる。

 単に生み出されるだけでは意味がなく、世界中の企業がGAFAのような活用方法を模索するはず。例えば全世界の売り上げを秒単位で集計したり、3次元地図をリアルタイムで更新するなど「現実世界から情報を集め、解析してフィードバックする。これが秒サイクルで回っていく社会になっていく」(粟島さん)。

 つまり、「5G」など大量のデータを瞬時にやりとりする通信ネットワーク技術とともに、大量のデータを瞬時に計算する量子コンピューターがこうした社会の実現に欠かせないというわけだ。

■自動車分野でも応用進む

 ただ、そんな夢のような社会はまだ少し先のこと。量子コンピューターに関しては、用途を限定しつつ「今まで30年後と言っていたものが5年後、10年後になる可能性が出てきた」(粟島さん)というレベルだ。

 限定される用途とは大きく2つ。単純ではあるが、今のコンピュータでは簡単に計算できない「組み合わせの最適化」と「シミュレーション」だ。前者は最適なルート計算やAI、後者は材料置換や磁石・電池の開発などに応用でき、自動車産業にも深く関わってくる。実際、豊田通商はデンソーと17年にタイで商用車のルート配送計画に量子コンピューターを試した。独フォルクスワーゲンやダイムラーは電池開発などで試しているという。実用化はまだ先とは言え、量子コンピューターの進化がCASE時代の自動車産業やクルマ社会を大きく左右することは間違いない。