2020年、自動運転車が日本の公道を走り出す。高速道路を想定した「レベル3」の技術が解禁され、ドライバーは限定的ながら運転から解放される。「東京オリンピック・パラリンピック」も、日本の自動車技術を世界に発信する好機になりそう。ボタンひとつで目的地に着く夢のクルマの実現はまだ遠い先の話だが、今年はその可能性を身近に感じる〝自動運転元年〟となりそうだ。

 レベル3は、高速道路など一定の条件下でシステムが運転し、ドライバーは前方を注視せずスマートフォンの操作などが可能になる。道路交通法と道路運送車両法が改正され、今春までに公道での自動運転ができる環境が整う。自動車メーカーではホンダがレベル3対応車を今夏にも発売する見通し。トヨタ自動車も、レベル3に限りなく近い技術をレクサス車に搭載し、年内に投入する方針だ。

 一方で、システムから手動運転に切り替える「ハンドオーバー」の難しさやコスト高を理由にレベル3の実装に慎重なメーカーも少なくない。スバルの中村知美社長は「レベル2・99のADAS(先進運転支援システム)を目指す」と話す。とくに自家用車への実装をめぐっては、メーカーの開発思想やモビリティ(移動性)への考え方が改めて問われることになる。

 一方でMaaS(サービスとしてのモビリティ)と自動運転技術は相性が良い。東京五輪でトヨタが選手の移動用として用意する「eパレット」は典型例だ。情報通信技術(IT)系の企業が開発を進める自動運転車の多くも、MaaSを前提としたビジネススキームの中で実用化を目指している。高齢化対策や渋滞解消、環境改善やバリアフリー対応、事故防止など、移動の課題はなお山積みだ。新たな価値を創出してこうした課題を解決し、さらに技術と事業が二人三脚で進化する好循環を築けるか注目だ。

 人工知能(AI)を持つクルマがドライバーと会話し、荒っぽい運転も難なくこなす―。1980年代のSFドラマ「ナイトライダー」に登場するクルマは、ドライバーの〝相棒〟として描かれていた。トヨタの豊田章男社長は、自動運転時代でも「主役はあくまでクルマを使っている人だ」と断言する。今から10年後、クルマや関連ビジネスはどんな進化を遂げているだろうか。