身長185㌢㍍の中嶋副社長をはるかに超える背丈に成長する
ソルガムは乾燥し痩せた土地でも育つ
raBitのバイオエタノール製造設備

 トヨタ自動車が植物由来のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)燃料の普及に向けた研究に力を入れている。主要な食糧との競合が少ないイネ科の植物「ソルガム」の成長促進や、バイオエタノールの効率的な製造技術を産学連携で開発している。トヨタの中嶋裕樹副社長は、福島県大熊町で行われた報道向け取材会で「一刻も早くCO2(二酸化炭素)を減らすならバイオ燃料だ。カーボンニュートラル燃料の普及を急ぐべき」と強調した。

 トヨタは、地域で異なるエネルギー事情や車の使用方法に対して多様な選択肢を提供する、パワートレインの「マルチパスウェイ戦略」を進める。脱炭素社会の実現に向け、バイオ燃料も選択肢の一つとして開発している。

 現在、CN開発センター(愛知県豊田市)が中心となり、バイオエタノールの原材料となる作物を研究している。「高バイオマス収量」「低コスト」「食糧と競合しない」をテーマに〝エネルギー作物〟を選び、改良を行っている。ソルガムに着目したのは、成長が早い一年草で、乾燥し痩せた土地でも育つからだ。

 トヨタが手掛ける福島県大熊町での圃場(ほじょう)では、さまざまな特性をもつソルガムを栽培している。市販されているソルガムに加え、成長が止まる原因となる穂が出ないように開花抑制を行った品種、1つの株から複数本の茎が伸びる「高分づけ化」した品種、背丈が大きくなるよう体積を最大化した品種など、現在88種、約3万本を育てている。

 ソルガムの増産に向け、神戸大学や農業・食品産業技術総合研究機構(久間和生理事長、茨城県つくば市)などとも連携する。ゲノム編集によって出穂を制御したり、光合成を速めたりするなど、地域の特性に合わせた品種改良を進めていく方針だ。

 ソルガムには土壌中にある重金属の浄化や除塩などにも効果がある。「土地を生き返らせる時にも使える」(海田啓司CN開発センター長)ことから、大熊町の圃場は、震災からの農業復興支援にも役立っている。

 バイオエタノールを効率的に製造する技術の開発にも取り組む。2022年7月に設立された「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」(raBit、中田浩一理事長、福島県大熊町)にはトヨタのほか、ダイハツ、スバル、マツダといった自動車メーカーだけでなく、エネオス、豊田通商などエネルギー関連企業も参画している。24年11月にバイオエタノール生産研究事業所を建設し、今年2月から製造を始めている。

 トヨタは、主要食糧と競合が少ない原料からエタノールを作る際の発酵工程で使用する酵母菌「トヨタ酵母菌」を豊田中央研究所と共同で開発している。現在、世界最高の発酵効率(95%)を実現した酵母菌でエタノールを製造している。

 raBitが持つ設備の年間生産能力は6万㍑。このうち1万㍑は国内最高峰のフォーミュラレース「スーパーフォーミュラ」で26年から使用されることが決まっている。エネオスがガソリンと混ぜ「低炭素ガソリン」として供給する。今秋にはraBitで製造された、バイオエタノールを混ぜたCN燃料を用いた車両のデモ走行も計画されている。

 現在、世界で高濃度バイオ燃料を日常的に使うのはブラジルや米国など一部に限られる。トヨタ車も、ブラジルなどで高濃度バイオエタノール燃料に対応するほか、他国向けでもガソリンにエタノールを10%混ぜた「E10」に対応している。

 自動車メーカーがバイオエタノールの原材料の栽培や製造技術の開発を手掛ける理由を、中嶋副社長は「バイオ燃料を使っていただくためだ」と言い切る。植物の栽培ノウハウやバイオエタノール製造方法など蓄積した技術で商売するやり方もあるが、中嶋副社長は「ビジネスにするかどうかは別問題。個人的な見解としては技術をしっかり確立させて提供し、関連する事業者に使っていただきたい、という思いで開発している」と話す。

 グループの豊田通商は世界で再生可能エネルギー事業を手掛ける。車両とエネルギーを〝両輪〟としてトヨタのカーボンニュートラルへの挑戦は続く。

(編集委員・水町 友洋)