スバルがレース参戦を通じたエンジニアの育成に力を入れている。普段は量産車を開発する若手エンジニアが、スーパー耐久シリーズ(S耐)に参戦するレース車両の開発に携わる取り組みを2022年からスタート。4年間で300人以上が参加したという。レース車両の開発スピードは量産車とは比べられないほど速く、競争の中で勝つための技術を磨く必要がある。モータースポーツ技術プロジェクトの本井雅人担当部長は「レース活動ができるエンジニアは量産開発もしっかりできるようになる」と言う。
スバルが参戦するのはスーパー耐久でメーカー開発車両が出場する「ST―Q」クラス。自動車メーカーではトヨタ自動車やマツダなどが参戦している。24年シーズン途中までは「BRZ」で、兄弟車のトヨタ「86」と共にカーボンニュートラル(CN)燃料を使用し、レース環境下で実用化に向けた課題を検証してきた。
チームを取りまとめてきた本井担当部長は「レース車の開発はとにかく要求レベルが高く、しかも納期が短い」と話す。量産車の開発期間は一般的に3、4年だが、モータースポーツの現場ではレースごとに改善を重ねていく「アジャイル開発」が求められる。ST―Qクラスにスバルなど自動車メーカーが参戦する背景にはCN燃料などの脱炭素技術を「走る実験室」で磨くことで早期に実用化する狙いがある。本井担当部長は「レース車は不具合が出た場合、短い時間で答えを出さないといけない。参加したエンジニアは目つきが変わる」と、レースでの人材育成に手応えを感じている。
レース車の開発は、各エンジニアが専門分野以外の知見を広げるきっかけにもなる。レース車の開発は入社2、3年目の若手エンジニアが中心。一つの部品の開発をようやく終えたぐらいのキャリアだが、問題が同時多発的に起こるレース現場では複数の担当領域が連携して解決しなければならない。専門領域を超えたコミュニケーションは「量産開発の現場に戻っても『ここのことはあの人ならよく知っているな』となり連携が広がる」と言う。
参戦車両のBRZと86はそもそもスバルとトヨタの共同開発車ではあるが、S耐では両社が同じ燃料を利用することで脱炭素技術の検証においても協力関係にある。本井担当部長は「CNの敵は『内燃機関』ではなく『炭素』だ。これまでは買うだけだった燃料について自動車メーカーが使いやすいよう要望を出す。そこは協調した方が良い」という。一方で、レースに関しては「勝ちにこだわるエンジニアを意識したい。活動を通じて『エンジニア魂』の熱量を高めたい」とも話す。
S耐2025年シーズンの第3戦の富士24時間レース(5月30日~6月1日、富士スピードウェイ)の会場で、最高技術責任者(CTO)の藤貫哲郎専務執行役員はスバルが強みを持つ水平対向エンジンの新機種を開発していることを明らかにした。レース会場で新型エンジンについて言及したことについて、本井担当部長は「ちょっと遠い将来のプロダクションにつながっているという道筋を見せることで、エンジニアの考え方が変わるのではないか」と説明する。参戦車両ではエンジン関連以外にも、運転支援システム「アイサイト」や「航空宇宙カンパニー」の炭素繊維強化樹脂(CFRP)の再生材をボンネットに採用するなど、独自に次世代技術の検証を行っている。
スバルはエンジニア育成の一環として、開発車両を自ら評価するために運転スキルを高める「スバルドライビングアカデミー(SDA)」を15年から展開しているが、本井担当部長は「レース活動はSDAが母体となっている」と明かす。「スバリスト」を呼ばれる熱狂的なファンを擁するスバルだが「こだわりを持った製品をつくれるエンジニアを、この活動を通じて育成したい」と力を込める。
(編集委員・福井 友則)



