下請け先の板金事業者らに代車の無償提供を強要していたとして、新車ディーラーが公正取引委員会から勧告を受けたことを踏まえ、国土交通省は1日までに、日本自動車工業会(自工会、片山正則会長)など業界3団体に注意喚起の通達を出したことを明らかにした。代車の無償提供は業界で横行しているともされる。国交省に強要を是正する権限はないが、優越的な地位に乗じた取引慣行を是正する機運が広がる中、自発的な調査や対策づくりにつながることを期待している。
公取委は4月24日、スズキ自販大分(屋代進也社長、大分市)に対し、下請代金支払遅延等防止法(下請法)違反で再発防止を求める「勧告」を行った。公取委によると、同社は遅くとも2022年5月から24年8月まで、修理を請け負った顧客に代車を貸し出すため、板金塗装などを委託した下請け事業者8社に合わせて25台を無償で提供させていた。下請け事業者は代車の任意保険料なども負担していたという。
下請法は、下請取引を①企業の資本金②取引内容─の両面から規定する。①は資本金3億1円以上の企業が資本金3億円以下または個人事業者に外注する、もしくは資本金1千1万円以上~3億円以下の企業が資本金1千万円以下または個人事業者に外注する場合は下請取引に該当する。②は製造委託、役務提供委託などのほか、「修理委託」も対象だ。
今回は、代車の無償提供が、親事業者の禁止行為として規定されている「不当な経済上の利益の提供要請」に該当すると判断された。小売店が協賛金や従業員の派遣などを仕入れ先に要請する場合もこの規定に該当する。
公取委によると、下請け事業者に代車を無償提供させたとして新車ディーラーに勧告を出したのは全国で初めてという。同社は下請け事業者8社に対し総額853万6123円を支払った。
国交省は、物流・自動車局自動車整備課長名で自工会サービス部会長のほか、日本自動車販売協会連合会(自販連)会長、日本自動車整備振興会連合会(日整連)会長に通達を出し、下請け事業者の利益を不当に害する行為を行わないことをそれぞれの会員企業に対して周知するよう求めた。
政府は、取引慣行の改善や中小・小規模(零細)企業の賃上げに向け、下請法の改正に入っている。この中で、事業所管省庁の権限を現行の「調査」から「指導・助言」に広げ、改正法の実効性をより高める考えだ。