ホンダの青山真二副社長は11月27日、大阪大学吹田キャンパス(大阪府吹田市)で「大変革期にあるモビリティ業界の面白さ」をテーマに講演した。創業者である本田宗一郎氏以来、受け継がれたホンダの精神を披露しつつ、同社の環境戦略や次世代の成長分野とにらむソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)の未来性について説明した。開発の最前線に携わる技術者も加わり、ものづくりの喜びとともに、変化の激しい自動車産業への挑戦を学生らに呼びかけた。
青山副社長は、ホンダが取り組むクルマの電動化、知能化に触れ「ハードウエア中心の進化だけでは時代に追いつけない、ソフトウエアがもたらす自由度が必要になる」と指摘。「環境負荷をかけずにソフトウエアのアップデートで車両価値を高めることができれば、商機を生み出す可能性がある。ホンダがフロントランナーとなり、ライフサイクル全体で動きを生み出す流れをつくりたい」と意気込んだ。世界を飛び回った自身のキャリアも振り返りつつ、「40年近く働いてきたが、ここ数年で新しいエコシステム(生態系)を作ろうとする動きが強まり、やることがどんどん増えた。みんなの時代はもっとダイナミックになる。厳しいが楽しい時代になる」と予想してみせた。
エネルギーシステムデザイン開発統括部の小栗浩輔統括部長は「今のエネルギー環境は当たり前のものではない。再生可能エネルギーが普及すれば、電源が分散する中で電気自動車がエコシステムを担い、いろいろなものがつながっていく」と説いた。その上で「ただクルマ好きの集団でなく、大きな社会システムを作る組織へと自動車会社のスタイルも変わっていくだろう」と話した。
電動事業開発本部SDV事業開発統括部の四竃(しかま)真人統括部長は、SDVについて「命を預かるクルマの場合、ソフトウエア更新は容易ではなかった。しかし、そのような時代が到来したのが今だ。新興勢は最初からこの発想で開発しているが、われわれも手探りで取り組んでいるところ」と語った。その上で「10年前に今の自動車業界を予想した人はいない。次のSDV革命では、ソフトウエアアップデートすらなくなり、クルマ自身がアルゴリズムを考える時代がやってくるのではないか」と予想した。
主な質疑は次の通り。
―社会人として面白かった思い出は
小栗氏「チームで一体となってクルマを作った時だ。北米駐在時にハイブリッド車開発のマネージャーを経験したが、出張先でそのクルマが走っているのを見ると感慨深いものがあった」
―ホンダらしい熱量のあるチーム作りの秘訣は
四竃氏「自分自身に熱量があり、仕事に夢中になれることが重要だ。それが楽しい雰囲気を生み、全体の戦闘力が向上する。次世代を引っ張る皆さんも、主体性と好奇心を大切にしてもらいたい」
―自分は二輪車に乗っており、マニュアル車も好き。電動化が進めば、こうした商品はなくなっていくのでは
青山氏「この前も電動スーパースポーツバイクのプロトタイプを試作したところだ。知能化領域では、運転を楽しむよりも運転以外を楽しむ方向にあるのは事実だが、一方で、楽しみたい人の世界も残していくので安心してほしい」