「先端品の量産に十分、手ごたえがある」と語る東会長
次世代半導体への期待は膨らむが…(イメージ)

 次世代半導体の国産化を目指すラピダス(小池淳義社長、東京都千代田区)。試作を始める2025年は「事業の正念場を迎える」と東哲郎会長は言う。栄枯盛衰が激しい半導体業界。実質的な国策会社である同社には期待と不安が交錯する。人・モノ・カネをどう差配するか。自動車業界との関係強化などにどう取り組むか聞いた。

 ―事業計画の進ちょくや、顧客の獲得状況は

 「工場の建設では90%ぐらい仕上がっていて、今後、各種の装置が入る。非常に順調にオンスケジュールで進んでいる。4月からパイロット(試作)ラインが動き出す。技術面でも、エンジニアらが米IBMの拠点で量産に向けた技術を習得し、30~40人規模でローテーションしている。大学や大学院卒の新人採用も実施した。海外の研究機関との連携も順調で、体制は万全だ。先端品の量産に十分、手応えがある」

 「顧客開拓では、4月に米カリフォルニア州サンノゼ近くに拠点を作り、開発や製造設計のサポートを始めた。活発にいろいろなお客さんと話しており、見込み客は数十の単位でいる。そういう意味では、全般的に非常に順調に進んでいる」

 ―自動車業界向けの展望は

 「中長期に考えて、先端半導体を使っていただけるということが最も重要になる。安全性をアシストしていくような側面でのデジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)活用のニーズが見込める。信号を含め、交通情報の処理や自動運転もある。米テスラなどは完全な自動運転を狙っており、4㌨(ナノは10億分の1)㍍やその先の活用が進む。米エヌビディアなどもそうした先端品を開発している。自動車業界が(自動運転などに)移行するのも遠くなく、各社はそのための半導体を必ず確保しようとするだろう」

 「特にソフトの領域は変化が加速し、特に米国や中国では自動運転が普及するとみる。こうしたニーズに対応するため、高性能化に加えて低消費電力化が必要になる」

 ―汎用品ではなく専用半導体を打ち出している

 「大手のファウンドリー(生産受託会社)が汎用品を扱っているわけで、将来的に考えた場合、低消費電力化やコストも考えると、専用化した形で最適化するのが得策だ。利益率も高い」

 「いわゆるミドルレンジみたいなものは目指さない。短TAT(ターン・アラウンド・タイム)で迅速な開発をすることも付加価値として訴求でき、競争力になる。自動車開発の中でも、何回も試行錯誤、往復ができることが大事だ。早い段階でいろいろ性能を確認してもらい、『もうちょっと、ここをこうしよう』というふうに開発を一緒にやっていく」

 ―具体的な手立ては

 「一つは、ある程度、共通する部分の知的財産(IP)について、プールするベースをつくった上で、カスタマイズする。日本の設計支援会社とも提携していく。また、ウエハーを1枚ずつ処理する『枚葉生産』と呼ばれる手法に取り組む。AIをフル活用して、データをフィードバックさせながら迅速に生産する。チャレンジだが、これまでのモデルの後追いでは勝てない」

 「(これまでの政府の支援する業界再編では)量産で後追いするというモデルで、シェアを目指してうまくいかなかった。私の東京エレクトロン時代の経験からみても、ユニークな製品こそが成功する」

 ―トヨタなどの姿勢には、慎重な部分も垣間見えるが

 「自動車メーカーとしては、現在の(半導体)サプライヤーも確保、支援しないといけないだろう。そういう意味でいうと(ラピダスのように)ベンチャー的なところが、パッと切り替えるというふうにはなかなかいかないだろう。そのあたりの事情はよく分かった上で、協力関係を築いていきたい」

 ―国内外の政治体制の影響は

 「まず国政でいえば、少数与党になっても、半導体政策に基本的に大きな影響はない。自民・公明の方は引き続きサポートしてもらえるし、立憲民主党からも『半導体に関してはサポートします』という話をいただいている。もっとも最終的には国民の支持が重要になる」

 「米新政権の政策変更の可能性も指摘はされるが、気にし過ぎても仕方ない。ただ、同盟国同士で協力していく点では変わらないとみている」

 「人材面ではアジアと連携する計画もある。私が理事長を務める技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)やラピダスも協力し、アジアやインドなどから学生らを招へいし、育成するものだ。文部科学省や経済産業省と話し合っている。人材のパイを取り合うのではなく、パイを広げていきたい」

 

〈プロフィル〉ひがし・てつろう 1977年東京都立大大学院修了、東京エレクトロン研究所(当時)入社、90年取締役、96年社長、2003年会長などを経て16年相談役。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)会長、日本半導体製造装置協会会長、技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)理事長などを歴任。22年8月にラピダス会長に就任。1949年8月生まれ、75歳。東京都出身。

(野元 政宏、山本 晃一)