経済安全保障の火種が電気自動車(EV)からコネクテッドカー(つながる車)にも飛び火する。米商務省は、中国とロシア製の部品やソフトウエアを用いたコネクテッドカーの輸入を禁じる。カナダも追随する方針だ。新車開発を効率化し、アップデートを通じて車両価値を保てる期待のソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)はEVと親和性が高く、コネクテッド技術は必須でもある。自動車メーカーはサプライチェーン(供給網)の見直しを迫られそうだ。
米国がコネクテッド技術に着目したのは、個人情報を含むデータの漏えいや、自動運転車へのサイバー攻撃などを強く警戒しているからだ。車載カメラやLiDAR(ライダー、レーザースキャナー)など車両センサーは増える一方。これらの車両が集める膨大なデータを分析すれば、機密を含めさまざまな情報が容易に把握されかねない。
実際、米政権のたび重なる警告にもかかわらず、中国は米国に対してのサイバー攻撃を繰り返しているとみられる。ここ数カ月でも、中国政府の支援を受けたとみられるハッカー集団が米国の通信網に侵入した事例がある。
今回の規制案では、ソフトウエアが2027年モデルから、車と外部の双方向で通信するテレマティクスコントロールユニット(TCU)やブルートゥース、Wi-Fi、衛星などに関するモジュール(複合部品)など、コネクテッド関連の主要部品が30年モデルから規制される。ジーナ・レモンド米商務長官は「国家安全保障上の懸念に対処するため、中国とロシア製の技術を米国の道路から排除されるように、的を絞った積極的な措置を講じる」と説明した。
中国商務省は「中米間の正常な協力に深刻な打撃を与える」と反発し、アパレルブランド「カルバン・クライン」を展開する米PVHに対し、半外国制裁法などに基づく調査に入るなど〝対抗措置〟を早くも繰り出している。
富士経済の23年調査によると、世界のコネクテッドカー市場(乗用車、商用車)は同年の約5千万台から35年には9230万台へと増える見通し。地図更新や緊急通報から決済、さらにOTAと呼ばれる高度なアップデートなど、その役割は広がりつつある。ドライバーが意識するかはともかく、将来はほぼすべての車両がコネクテッドカーになると言っても過言ではない。
自動車各社が対応を急ぐSDVやロボットタクシーなどの自動運転車も常時通信が前提だ。こうした規制が米加以外に広がれば、世界で新車を売る自動車メーカーは仕向け地ごとにサプライチェーンの見直しを迫られる事態になりかねない。いわゆる〝原産地規則〟の定義や審査法など米加規制の詳細を含め、成り行きが注目される。