ボードリーなどが運行する自動運転バス

 国内で自動運転レベル4(特定条件下における完全自動運転)が動き始めた。昨年5月に開始した第3セクターによる福井県永平寺町に続いて、鹿島とソフトバンクの自動運転サービス子会社のボードリー(佐治友基社長兼CEO、東京都港区)が民間主体では国内初となるレベル4の自動運転バスの運行を始めた。バスの輸送能力の確保が大きな社会問題となっている中、高度な自動運転の実現が期待されている。

 ボードリーなどが運行する自動運転バスは東京・大田区の複合施設「羽田イノベーションシティ」(HICity)内の道路を走行する。施設を運営する羽田みらい開発の加藤篤史社長(鹿島・開発事業本部事業部長)は「検討を始めた時に想定したよりも時間がかかったが、こぎつけることができた」と話す。

 自動運転バス「アルマ」がHICity内の1周800㍍の道路を最高時速12㌔㍍で走行する。当面、車内にスタッフを配置して、自動運転の条件を満たさない場合の運転操作などの対応に当たるほか、茨城県境町にある遠隔監視センターで自動運転バスを監視する。将来的には、車内にスタッフを配置せずに遠隔監視者が乗客をサポートする体制に移行する予定だ。

 HICity内では、2020年9月から自動運転レベル2で定常運行してきた。今回、レベル4で自動運転バスを運行するため、ソフトとハードの両面で手を加えた。センサー類を増やして車両周辺の検知能力のレベルアップを図った。また、出合頭の衝突を避けるため、交差点で一旦停止した後「顔」を出して安全確認と存在をアピール、安全を確認して発進するという人と同様の運転操作するように制御を変更した。

 報道向けの体験試乗でも歩行者を検知して、安全を確認するまで停止する様子が見られた。レベル2での運行で収集したデータなどを使ってアルゴリズムを磨いてきた。

 ボードリーでは、自動運転バスは乗降する停留所を意思表示するだけで「簡単に移動できる。いわば横に動くエレベーター」と位置付けており、普及促進に力を入れる。自治体や事業者向けにソリューションを提供し、公共交通空白地域などに移動手段を提供していくことを目指す。

 レベル4の自動運転バスの運行は運転免許を持つスタッフの車内配置が不要となるため、ドライバー不足の解決手段として期待される。「運転手不足でバスの減便などの課題が各地で顕在化している」(大田区)だけに、自動運転で運転手が不要になることは大きい。ボードリーでは「公共交通を持続可能な形で続けることで、地域の人の流れ、いわば血流がよくなる」とする。

 新しい移動手段として期待される自動運転バスだが、全国展開に向けての課題は多い。一つは安全性の確保だ。レベル4運行で先行した永平寺町の自動運転バスは昨年11月、自転車と衝突する事故が発生して運行を一時停止した。車載カメラが自転車を認識できなかったことが原因だ。

 レベル4で自動走行する永平寺もHICityもみなし公道とはいえ施設内や、寺の参道沿いなど、距離は短く、一般車両との接点が限られる。一般公道で走行する場合「信号での対応や、不意の飛び出しの検知、比較的低速で走行することで渋滞につながらないかなど、ハードルは高くなる」(ボードリー)のは確実だ。

 採算面も課題だ。安全性の高い高度な自動運転を実現するには、高価なセンサーやAI(人工知能)が必要で、車両価格が高くなる。遠隔監視のシステムや監視に当たるスタッフなども必要で、採算の確保には、新たなビジネスモデルが求められる。

 羽田みらい開発の加藤社長は「(自動運転バスの運行は)さまざまな相乗効果が期待できる」という。施設では、デジタルツインを活用して人の流れなどのデータを収集している。自動運転バス利用者などのデータの有効活用や、施設利用者向け販売促進などにつながる可能性も見込まれる。

 ボードリーなどは今後、羽田空港とHICityを結ぶルートを自動運転レベル4で運行することを目指している。国内でレベル4自動運転バスの運行に向けて前進するHICityでの取り組みが注目される。

(山本 晃一)