先日、あるテレビドラマの中で、今どきの若者が居酒屋で隣り合わせた高齢者と話をするシーンがあった。何気なく観ればなんということのないシーンなのだが、その若者の言葉遣いに、なるほどとうならせられるものを感じた。その若者、相手の高齢者にスマートフォンの使い方を教えていたのだが、普通なら「スマホをタップして」と簡単に言ってしまうところ、劇中では「スマホを触れてみて」と言っていた。

 これは普段、自分が何気なく使っている言葉ではなく、相手(想定だと70歳くらいの高齢者と思われる)が理解しやすい言葉を選んでいることに外ならない。もちろんテレビドラマなので、脚本の段階で意図的に作られているのだろうが、相手の語彙(ごい)力や理解度に合わせて言葉を選ぶ行為は優しさを感じるシーンに仕上がっていた。

 実社会でも同様。携帯電話ショップで新しいスマホを買う時や、家電量販店などで最新の電化製品を買う時など、私の世代でも分からない言葉を連発する店員に辟易(へきえき)することは案外多い。自分たちには当たり前の言葉や名称であっても、相手の理解度を見極めて説明しないと伝えたいことが十分伝わらないのに…。これでは説明相手が「お客の様子の見極めもできない店員では先が思いやられる」と、立ち去ってしまうだろうにと、同情さえ覚える。

 自動車販売店でも全く同じ状況を時折見かける。お客さまのニーズを探り、購入のポイントが理解できたセールス、そこまでは素晴らしい。あとは適切にベネフィットトークを使ってお客さまの購入意欲を向上させれば成約も遠くないのだが、ここで思わぬ落とし穴が待っていることがある。

 お客さまが購入するに当たっての重視ポイントが分かると、待ってましたとばかりに専門知識を披露してしまうセールス。また、自分の説明に酔いしれ、お客さまが納得しているかどうかも確認せず、とにかく説明を続けるセールス。この両タイプのセールスに共通するのが、横文字や難解漢字の言葉を説明の中で駆使すること。お客さまには、その言葉・単語の意味が理解できていないことが往々にしてありがちだ。だから、ひと言ひと言、お客さまが理解できているのかを確認しながら説明を進めなければ、成果は上がらない。商品説明はセールスの演説会ではないことを理解すべきだ。私たち自動車業界に身を置く者なら簡単に分かる言葉でも、一般の人には馴染みの薄い言葉は少なくない。

 寄り添った商談接客とはよく言うが、相手の気持ちに心を寄せるだけではなく、相手の理解度に合わせた言葉をチョイスすることも寄り添うことの一つと言える。

 前出のテレビドラマの脚本家、セールスをやったとしてもきっと大成するに違いない。

 文:株式会社プログレス

   大久保政彦