中古車販売大手のビッグモーター(当時)による自動車保険金の不正請求問題が発覚したのは2023年7月でした。靴下にゴルフボールを入れて顧客の車を叩いたり、ドライバーで傷つけたりして保険金請求額を増やしていました。大量のラジオCMなどで知られた企業の悪質な行為は社会問題となりました。

 曲折の末、伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(佐藤雅典社長、東京都千代田区)の3社連合が400億円を投じて買収し、旧ビッグモーターは5月1日付で再編されました。主力事業を引き継ぐ新会社「ウィーカーズ」(東京都千代田区)と、訴訟など不祥事の対応をする会社「バーム」(東京都多摩市)に分割されたのです。

 この問題は、旧ビッグモーター固有の問題と制度的な問題の2つが背景にあります。旧ビッグモーターは極端な売り上げ至上主義でした。創業家の子息が20代で役員になり、この傾向に拍車がかかります。コロナで売上高が落ちてさらに無理をしました。

 制度面では、旧ビッグモーターのように整備工場を持つ大型販売店が保険代理店を兼業している点が問題視されています。深い関係にあった損害保険ジャパンは不正を見て見ぬふりをしました。保険を大量に売ってくれる「神様」だったからです。金融庁が対策を検討中ですが「兼業」は続く方向です。代わりに代理店を見張る自主規制機関をつくる案が出ています。

 修理の必要性や価格の妥当性を消費者が判断するのは難しい側面もあります。ほぼ同時期に大手メーカー系ディーラーでも「過剰請求」が相次ぎ発覚しています。国土交通省は「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」をつくりました。車体や損傷部位などの画像を記録し、一定期間保存することなどを求めていますが、事業者に負担をかけないよう義務化は見送っています。