ADAS技術は日進月歩で進化するが…

 自動車各社が力を入れる先進運転支援システム(ADAS)の性能評価を米国道路安全保険協会(IIHS)がまとめた。ADASは「予防安全装置」として主要国のNCAP(自動車アセスメント)でも評価されているが、対象は衝突被害軽減ブレーキなど一部にとどまり、包括的な評価は珍しい。結果は、トヨタ自動車のADASのみが「良」と評価され、テスラやメルセデス・ベンツ、BMW、ボルボなどのADASは軒並み厳しい評価だった。IIHSのデビッド・ハーキー代表は「誤用や集中力低下を防ぐ十分な対策が含まれていない」と指摘し、メーカーに改善を求めた。

 IIHSは、自動運転「レベル2(高度な運転支援)」に相当する自動車メーカー9社の14システムを対象に10種類の試験を行い、7項目について、高い順から「good(優)」「acceptable(良)」「marginal(可)」「poor(不可)」の4段階で評価した。テストコースでの試験を中心とし、一部は車道が明確な平坦な公道で実施した。悪天候ではない照度2千 ルクス 以上の日中に実施した。

 7項目のうち「ドライバーモニタリングシステム(DMS)」「注意喚起」「安全機能」の3項目で、過半数のシステムが「不可」と評価された。

 DMSは、レンズが遮られている場合や運転手の顔が見えない場合、ステアリングに手が添えられていない場合など、シーンごとの作動状況を確かめた。この結果、全システムがいずれかの条件で十分な要件を満たさなかった。フォードの2システムは「良」と評価されたが、警告が出るのは顔が見えなかったり、レンズが覆われている場合だけで、ドライバーが別の作業に気を取られていることを検知できなかった。「可」と評価されたBMWのシステムは、レンズや顔が覆われている場合は反応しなかった。

 「注意喚起」は、前方を注視していない場合やステアリングを握る準備ができていないことを検知した際、適切な警告を出せるかどうかを確認した。10秒以内に音と視覚による警告、20秒以内に別の警告を追加するか、車両を減速させる緊急モードを作動させられれば基準をクリアする。この試験で「優」だったのはトヨタ、フォード、GMのシステム。例えばレクサスのシステムは、4秒後に音声と視覚による警告を開始し、16秒後に緊急モードが作動した。日産とテスラのシステムはほぼ同等の性能で、日産の場合、音と視覚による警告は6秒で出たが、追加の警報は21秒後で基準に届かなかった。残りのメーカーの7システムは15秒以上、音と視覚の警報が出なかった。

 「安全機能」は、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱防止機能を解除している場合や、シートベルトをしていない場合、ハンズオフ走行などの運転支援機能が作動しないかどうかなどを調べた。全ての要件を満たしたのは日産の「プロパイロットアシスト2・0」など3システムだった。一方、7システムが「不可」と評価された。例えば、ボルボのシステムはドライバーがシートベルトを外した場合に警告なしに機能が解除されてしまうほか、車線逸脱防止機能がオフでも作動する。また、ヒョンデの2システムは安全機能項目の全要件を満たさなかった。

 このほか、「緊急時の操作」は、ドライバーが注意喚起に反応しなかった場合の減速やSOSコールを車内に発信するかなど、「車線変更」は、車線変更前にドライバーの入力操作を必要とするかどうかなど、「ACC(アダプティブ・クルーズコントロール、定速走行・車間距離制御装置)の復帰」は、ACCの作動中、2分間停止した後に発進した先行車に再度、追従できるかどうかなど、「協調操舵」は、システムを解除せずに車両を手動で操縦できるかどうかなどを確かめた。

 日進月歩で進化するADASだが、技術への過信や誤用が逆に事故を招くリスクは常にある。実際、エアバッグやABSの普及初期にも誤用などによる事故が起き、衝突被害軽減ブレーキの性能を試そうとして事故を起こした例もある。

 業界では、製造物責任などの観点から「レベル3」(条件付き自動運転)の実用化が足踏みし「レベル2の3化」が進むが、人工知能(AI)の高性能化とともに「判断のブラックボックス化」という新たな課題が浮上しつつある。レベル2でも、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を含め、利便性と安全性を両立させる工夫がなお求められそうだ。