ブリヂストンと東京大学などの研究チームは、海で分解するゴムを開発し、2029年にもタイヤとしての試作を目指す。欧州で予定される環境規制の強化をにらんだものだが、将来は非可食のバイオマス(生物由来)素材を用いたり、埋めると土に還(かえ)るタイヤの開発などにつながる可能性もある。
研究チームは、タイヤとしては強靱でありながら、海に入ると分解しやすくなる「マルチロック型バイオタフポリマー」を使ったタイヤの実現を目指している。
タイヤは通常、硫黄を加えて加熱(加硫)し「架橋構造」を作り出すことで、強度や弾性を生み出す。ただ加硫後は分解しにくくなるため、研究プロジェクトでは特殊な「スイッチ結合」を用いる。分解性を実現するカギは、微生物や光、熱、酸素など、海洋環境特有の外部からの刺激だ。タイヤの使用時にはない刺激が複数、重なった時にだけ分解する。すでに、タイヤとしての強度を従来より高めつつ、海洋分解性を持つ結合を発見した。
この研究は、内閣府による「ムーンショット型研究開発制度」の一環として、東京大学大学院の伊藤耕三教授を中心に進んでいる。伊藤教授は前身の「革新的研究開発推進プログラム」で自動車用の強靱な素材の開発に取り組み、ブリヂストンと高い耐久性を持つゴムを開発した。摩耗速度を従来の4割以下とし、ゴム使用量を減らす技術だ。今回は、ゴムをさらに強くしながら、海洋分解性を10倍に高めたタイヤの実現を目指している。
25年に導入予定の欧州環境規制「ユーロ7」では、タイヤ由来の摩耗粉塵(TRWP)も対象となる見込み。TRWPは、河川から海へと流れ込み「マイクロプラスチック」として沈殿しているとの指摘もある。
このTRWPの影響について、大手タイヤメーカーで構成される「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」傘下のタイヤ産業プロジェクト(TIP)は「人体へと環境への安全性は確保されている」とする。ただし、影響が解明できていない化学物質も一部残る。
特に添加剤の1つである「老化防止剤」に使われる化学物質が変異し、北米の一部で魚に影響を及ぼしているとする研究もある。今回の研究では、添加剤が安全に分解する研究にも取り組む。
国連環境計画(UNEP)が18年に公表した調査では、環境に流出するマイクロプラスチックの半数近くがタイヤ由来だとする。海で分解するタイヤができれば、こうした問題の解決につながる。さらに、北米原産の低木「グアユール」など、非可食のバイオマス素材からタイヤをつくれば、より環境負荷を下げられる。
伊藤教授は「日本のタイヤ産業の優位性を担保する意味でも、アカデミアが協力して画期的な技術を導入する必要がある」と語った。