日本自動車研究所の各施設を見学
城里テストセンターではテストコースのバンクを歩いた
講演する内田研究主幹
予防安全技術のレクチャーも受けた
自動運転技術の進展状況や課題などを学んだ
安全技術のポイントを講義

 日本自動車教育振興財団(JAEF、内山田竹志理事長)は、高校教員らに自動車の開発動向を学んでもらう機会として、自動運転技術などをテーマとした研修会を日本自動車研究所(JARI、鎌田実所長)の城里テストセンター(茨城県城里町)及びつくば研究所(同つくば市)で開催した。全国から参加した約20人の教員らは、専門家のレクチャーや質疑応答を通じ、自動運転に関する疑問や不明点を解消するとともに、この技術の社会的な意義に対する理解を深めた。

 研修会は、教員らに先端技術を実際に見て学べる機会を提供することで、将来の自動車業界を担う若手の輩出につなげていくことが狙いの一つとなっている。例えば、自動車整備業界では自動運転技術や電動化に対応できる整備士の育成が課題となっている。同様に、自動車メーカーやサプライヤーは、自動車の大変革を見据えて開発分野での活躍を志す人材を待望している。こうしたことから、研修会で得た知見を生徒に身近な教員から発信してもらい、興味喚起を図る考えだ。

 参加教員の勤務校は工業高校、普通科高校、特別支援学校などと幅広く、国立難関大学への合格者数がトップレベルの進学校や名門私立大学付属校の人も見られた。所在地は北海道から四国まで広範囲に及び、自動車産業に対する関心の高さがうかがえた。

 城里テストセンターでは、JARIの内田信行研究主幹が自動運転技術の研究・開発状況と実用化の課題を講演。内田主幹が冒頭、「自動運転の〝レベル〟の意味が分かる方は」と問いかけたところ、手を挙げたのは数人。自動運転の基本的な情報が、世間に周知されていない現状が垣間見られた。

 内田主幹は「米国ではロボットタクシーによる無人自動運転サービスが広がりを見せている」と最先端の実例を挙げた。そして、日本ではトラックやタクシーなど商用車で取り組みが先行し、その次の段階で自家用車での本格活用が見込まれると解説した。質疑応答では「センサーが故障した(自動運転制御が不能になった場合)の対応」や「事故発生時の責任の所在」「保険」など、自動運転の社会実装における重要課題について多数の質問が寄せられた。

 さらに内田主幹は、米国ではロボットタクシーによる交通渋滞が発生したり、自動運転車が道路を横断中の歩行者と衝突したケース、救急車などの緊急車両にスムーズに道を譲れないといった事例を挙げ「現状では人間ほど臨機応変に対応できない」と、技術の未熟さを指摘。高校生らにも、自動運転の課題解決にぜひ興味を持ってもらいたいともした。

 つくば研究所では燃料電池研究棟や衝突実験場、全方位視野ドライビングシミュレーターなどを見学。城里テストセンターでは、テストコースのバンクの急勾配を実際に歩くなど、施設の見学を楽しむ姿が見られた。

 JAEFは、自動車教育の支援の一環として、分解組み立て用エンジンの寄贈や講師派遣に取り組んでいる。主な支援先は、工業系専門高校の自動車科となっている。ただ、少子化と〝普通科志向〟の影響で、専門教育を志望する生徒は減少傾向にある。

 高校自動車科の教員らが組織する全国自動車教育研究会(全自研、古藤一弘会長)の会員校数は、1998年度の約150校が、現在は75校ほどに減少した。また、高校の進学者数そのものが今後、さらに減少する可能性があるため、各地で〝高校再編計画〟が議論されている。そこでは、工業高校が普通科高校や商業・農業などの実業系高校との統合案が多く見られる。今回の研修に参加した教員は「生徒に自動車を学ぶモチベーションをどのように持たせるべきか」と苦慮していた。

 教員が最先端の自動車開発を知り、授業などで情報を発信することは、高校生の自動車に対する興味を深める機会となる。JAEFの有賀潔常務理事は「研修会で見聞きしたことを生徒に話してもらうことで、自動車関係に進みたいと考える生徒が少しでも増えてくれたら」と期待を示す。今後も教員に自動車産業の最先端を学べる機会を活発に提供し、人材育成を支援して自動車業界の持続的な成長に貢献していく考えだ。

(諸岡 俊彦)