VW安徽省の研究開発センター
合肥工場の高電圧バッテリーシステム製造拠点
BMWの新上海研究開発センター

 独大手自動車メーカーが、中国で現地メーカーに後塵を拝する電気自動車(EV)販売の巻き返しに乗り出した。フォルクスワーゲン(VW)グループは、小鵬汽車(Xpeng、シャオペン)に出資、共同開発を通じて現地メーカーのノウハウをダイレクトに開発へ取り込む体制構築に着手。メルセデス・ベンツ、BMWは開発センターを増強した。

 各社の狙いは、インフォテインメントやコネクテッドを利用して「ユーザーエクスペリエンス(UX)」を高めたり、自動運転技術を高度化したEVが売れ筋になるなど、中国特有のニーズを車両開発に反映するスピードを早めることが狙い。中国の2022年EV新車販売ランキングで、上位10ブランドに入った海外メーカーは米テスラのみで、中国勢が圧倒的な強さを示す。その打開に向けて、ドイツ各社が動きを本格化した。

 VWグループは、現地自動車メーカーとの戦略的提携を拡大する。VWブランドでは、シャオペンと車両共同開発をはじめとした長期の技術連携契約を締結した。これに合わせてVWはシャオペンに4・99%を出資。さらにVW傘下のアウディは、提携先の上海汽車集団(SAIC)と「インテリジェントコネクテッドビークル(ICV)」の共同開発で新たなメモランダム(法的拘束力のない合意書)を交わした。今回の提携強化によって、VWグループは現地メーカーのノウハウを採り入れる体制を再構築し、拡販を目指す。

 VWのシャオペンへの出資額は7億㌦(約990億円)の予定で、シャオペン取締役会でオブザーバーの権利を得る。VWで中国を担当するラルフ・ブランドシュテッター取締役は「現在、EVのラインアップ拡大と次のイノベーションに備える段階を迎えたが、中国で技術分野をリードするシャオペンという強力なパートナーを得られた。競争と動きの激しい市場環境だが、シナジーを生み出し迅速に新製品を投入し、現地特有のユーザーニーズに対応していく。開発と調達コストの最適化も重要テーマだ」と提携の狙いを述べた。

 VWブランドは26年初頭をめどに、シャオペンとEV2車種を共同開発し、投入する計画だ。VWのEVプラットフォーム「MEB」にはラインアップのない補完的なモデルとする。5月に上海に開設したドイツ以外では最大規模となる研究・開発・調達拠点、VWグループ・チャイナ・テクノロジー・カンパニー(VCTC)に集めた2千人以上のスタッフで商品づくりを進める。同時に現地ハイテク企業との協業に力を入れて、技術優位性の確立にも取り組む。

 シャオペンのヘ・シャオペン会長兼CEOは「当社はこれまでコネクテッドや先進運転支援システム(ADAS)の全てを自社開発してきた。この長期的な戦略的パートナーシップでは、互いのスマートEV技術と世界クラスのデザイン・エンジニアリング能力の共有によって、相互補完的な強みを生み出せる」と協業に期待を寄せた。

 生産は、VWが拡張・設備更新を進めている安徽省の合肥工場が担当する。同工場は年内にも拡張を完了し稼働する予定。高電圧バッテリーシステムの製造や、人工知能(AI)とコネクテッドを組み合わせて高度な自動運転などを実現するICVの開発・部品調達にも対応する体制を構築し、次世代車の生産に備える。

 アウディと上海汽車は、高級車(プレミアム)セグメントでICVの次世代モデルを開発する。アウディが中国では未参入のセグメントで、まずはEVのラインアップを構築し、これを足ががりにICVの本格投入につなげていく。

 BMWは、中国では7月半ばに開設した新たな上海研究開発センターを生かして、ICVの開発を強化する。「NEUE KLASSE(ニュークラス)」という次世代EVの開発に合わせて、ICVの姿を具体化していく計画だ。同社は現在、中国の研究開発人員を3年前の3倍、3200人体制に増強し、本拠地ドイツに次ぐ海外最大となる車両づくりの体制を構築した。

 メルセデス・ベンツも22年3月に北京に続く研究開発拠点を上海に開設、現地向けのICVの開発を活発化している。

 VW、メルセデス、BMWの独大手3社は、現地勢に出遅れた中国EV事業の巻き返しでは、インフォテインメントやICVの商品力が鍵を握ると見通す。そこでは新技術導入のスピード感が重要な要素となる。各社が投入を計画するさまざまな技術のうち、「どのアイデア」を優先して商品化するのか、その市場ニーズとのマッチングが成否を占うことになる。