ゼンリンは新設充電器はすべて現地確認する(イメージ)
EVスマートのアプリの誘導図
ゼンリンの誘導図(イメージ)
ゴーゴーラボのマップ図

 電気自動車(EV)用の充電器設置数について政府は、2030年までに公共用「急速」3万基を含む15万基を設ける目標を掲げる。このデータをどう正確に把握していくかが課題として浮上している。政府は数えておらず、把握する3社の公表数はそれぞれ異なる。「正確な数は誰にも分からない」(大手充電事業者トップ)状況だ。政府はマンションなど集合住宅へも増やそうともしているが、このデータは3社も集めていない。

 3社とは、ゼンリン、充電事業者のエネチェンジ(城口洋平社長、東京都中央区)、三菱商事系のゴーゴーラボ(宗像祐典社長、神奈川県鎌倉市)だ。ゼンリンとゴーゴーラボは充電コネクターの数(基)を、エネチェンジが展開するEVスマートは充電スポット(拠点)数を公表する。

 3社のデータに極端な差はないが、数千単位で違う微妙な状況だ。現時点では最大手、東京電力系のeモビリティパワー(四ツ柳尚子社長、東京都港区)が2万口(ネットワーク接続数)を持ち、3分の2程度をカバーしていることが背景にある。ここに聞けば大まかには分かる。ただ、最近はさまざまな企業やグループによる充電事業への参入が相次いでいる。充電事業をやめたり、一部撤去したりするケースも増えている。事業者をもれなくカバーし、いかに迅速にデータ更新していくかが3社の課題だ。

 ゼンリンの最大の特徴は、新設公共充電器をすべて現地で確認することだ。情報を得るとその翌年度中に現地に行く。作業に全国で何人があたっているかは非公開だが、70ある調査拠点で実施しているという。充電器がどのような場所にあるかの詳細な情報は、同社がナビゲーションシステムメーカーに提供する情報などに反映される。

 エネチェンジも自社で設置した充電器については現地確認し、アプリ情報などに生かす。

 ゴーゴーラボやエネチェンジは、EVユーザーの口コミ投稿を最大限活用している。

 一方、充電器の撤去情報については3社とも原則的に現地での確認はしていない。撤去については設置者からの連絡もあるという。「ネットで見て充電に来たけど使えなかった」などと利用者からクレームが来るため、「ネットから削除してほしい」と要望があるようだ。

 ある関係者は「(充電器の)完全な数ですか?と聞かれると『うーん』と言わざるを得ないが、だいたいカバーできているとは思う」と話す。撤去情報の精度を上げることが今後のカギの一つなのは確かだ。

 経済産業省はゼンリンのデータを「公式」データとして採用している。日本のデータとして、政府からIEA(国際エネルギー機関)に提供されている。世界各国でEV用充電器の普及度を比べる元データとなっている。

 政策の重要データだが、民間企業による任意の調査に依存していることに問題はないのか。「実は『問題』としては認識している。どのように把握していくのがいいのか、いろいろ検討している」と、経産省自動車課の担当者は話す。

 火災予防条例で出力50㌔㍗超の充電器は所轄の消防署に届けなくてはいけないが、万一、火事が起きたときに消防署が場所を把握しておくことが目的のため、全国的なデータとしては集計していない。最近では、充電器設置に補助金をつける際に「検索サイト」で確認できるようにすることも条件にしているという。急に焦点となったデータのために対応が追い付いていないのだ。

 政府は都市部に多い集合住宅にも充電器を増やしていく方針を文書に記す。しかし、3社とも民家も含めて把握していない。「地下駐車場などにあると全く分からない」という。経産省では、こちらについても補助金や充電事業者へのヒアリングで把握していくことを検討している

 正確なデータがないと普及目標を立てられず達成度も検証できない。予算作成にも影響する。EVと充電器が今後本格的に普及することを考えると国内の電力需要推計上も重要だ。経産省は充電インフラに関する官民検討会を近く立ち上げ、年内にもロードマップ(工程表)をまとめる。ここで議論される可能性もある。

(小山田 研慈)