CO2削減に向けた新たな製鉄プロセス

 鉄鋼業界が強い危機感を持ってカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)対応に取り組んでいる。鉄鋼業界は製造業による二酸化炭素(CO2)排出量の約4割を占めており、国が掲げる2050年カーボンニュートラルを達成する上で重要な鍵を握っているためだ。製造段階で多くのCO2を排出する高炉を持つ国内鉄鋼大手3社は、懸命な自助努力と企業の枠を超えた業界協調の両面から対応を進めている。自動車のみならず、あらゆる産業で低CO2鋼材、カーボンニュートラルスチールの早期量産を求める声が強まっている。

 鉄鋼業界が排出するCO2の大半は、高炉と呼ばれる溶融炉を使用して鉄を作り出す製鉄方法に由来する。鉄は自然界において酸化した鉄鉱石として存在しており、鉄鋼製品を作るためには酸素を取り除く「還元」を行わなければならない。還元材には安価な石炭(炭素)を使うが、この炭素が鉄鉱石に含まれる酸素を奪うことでCO2が発生してしまう。1㌧の鉄を作るのに約2㌧のCO2が発生すると言われている。そこで、鉄鋼業界がカーボンニュートラルの実現に向けて強力に推し進めているのが、この鉄鉱石還元プロセス工程で発生するCO2排出の削減となる。

 日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の鉄鋼3社は業界全体の脱炭素化に向け、「高炉法での水素還元」「電炉法の利用拡大」「水素直接還元製鉄」の3つの技術革新に取り組んでいる。石炭の代わりに水素を使った直接還元製鉄を本命として目指しながら、その過程では既存の高炉を使ったCO2排出低減、電炉の活用拡大にも取り組む。

 高炉での水素還元は、石炭の一部を水素に代替する方法。水素は鉄鉱石の酸素と結びつき、水を生成するため製鉄プロセスでのCO2排出量を大幅に抑えることができる。技術はまだ確立されておらず、日本では08年から「水素活用還元プロセス技術(コース50)」というプロジェクトが始まっている。

 課題は、水素の吸熱反応によって炉内の温度が低下してしまうことにある。温度低下時には原料の粉化や生成物の固着化が起こりやすい。そのため大量の加熱した水素を炉内に吹き込む技術開発が続けられている。

 電炉法は、市中で発生した解体くずなどの鉄スクラップや還元鉄を電気で溶かして作る製鉄法。還元工程がなく1㌧の鉄を作る場合のCO2排出量は高炉の4分の1の約0・5㌧で済み、製鉄プロセスの脱炭素化に寄与する。

 課題は、スクラップに混在する銅などの不純物の存在だ。鉄の品質劣化を招く恐れがあるため、自動車用など高級鋼板には不向きとされている。高炉と比べて炉が小さく生産性が低いという課題もある。

 本命が水素直接還元製鉄だ。高炉に頼らない方法で石炭を使わずに水素だけで低品位の鉄鉱石を還元する。現在は主に水素を多く含む天然ガスを使用して鉄鉱石を還元しているが、高炉メーカー3社は水素100%で還元するための技術開発を続けている。

 課題はカーボンフリー水素の安定調達だ。再生可能エネルギーで生み出したCO2排出ゼロの水素の大量調達が欠かせない。

 高炉メーカーにとって、脱炭素化は重い経営課題となっている。カーボンニュートラル対応を進めていくには、巨額の研究開発費用や設備投資が必要になるだけでなく、カーボンフリーの電力や水素が調達できたとしてもコスト上昇が避けられないためだ。研究開発費で5千億円、実機化に向けた設備投資には4~5兆円が必要になるとの試算もあり、粗鋼製造コストは現状の倍になる可能性も指摘されている。

 日本が目指す50年カーボンニュートラルに向けては、巨額なコストを社会全体で負担する仕組みの構築や行政支援が欠かせないと指摘する業界内の声は少なくない。

(水町 友洋)