電気自動車(EV)の心臓部となる車載用電池の生産計画が具体化してきた。自動車メーカー各社は電池の確保に向けて複数の電池メーカーと組み、内製化も含めて多様な調達ルートを確保しつつある。ただ、電池事業はリスクが高く、技術動向やEVの需要を読み誤れば業績に大きく響きかねない。電池事業戦略の巧みなハンドルさばきが自動車メーカー各社に求められそうだ。

 自動車メーカー各社が打ち出す電池事業計画の中で、際立つのが中韓の電池メーカーの積極的な動きだ。日米欧の自動車メーカーの多くが韓国のLGエナジーソリューション(LGES)や中国の寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)などと組み、各地域で電池の生産体制を整え始めている。中韓勢は果敢な投資で量産をいち早く軌道に乗せ、競合他社を引き離したい狙いがある。

 2040年までにEVを含むゼロエミッション車(ZEV)専業メーカーを目指すホンダは、LGESと合弁会社を米国に設立し、車載電池の生産に乗り出す。北米ではゼネラル・モーターズ(GM)とLGESとの合弁会社「アルティウムセルズ」からも電池を調達する。中国市場向けではCATLと提携、エンビジョンAESCとも取引を始める。

 トヨタ自動車もEV向け電池の確保に向けて本腰を入れ始めた。8月末、最大7300億円を投じて24年以降に電池生産を開始すると発表し、国内ではプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)の姫路工場に生産ラインを新設するほか、自動車部品を製造するトヨタの2工場でも電池生産に乗り出す。海外に比べEVの普及率が低い日本で電池生産を先行させるのは、お家芸である技術の「手の内化」で電池の性能向上とコスト削減を加速させる狙いがある。

 生産体制の構築と同時に各社が注力しているのが、電池材料の確保だ。フォード・モーターはセル(単電池)の材料を直接調達する方針を示し、主要な鉱業企業と協力して26年以降に必要なニッケルの大半を調達するめどをつけた。GMは、EV用電池の正極活物質(CAM)と水酸化リチウムの長期供給契約を材料メーカーと結んだ。日系では、PPESがオーストラリアのイオニアとリチウムの供給契約を締結し、5年間、年間4千㌧の炭酸リチウムを確保する。

 ただ、電池事業はもともと薄利多売な上、設備投資がかさみ、開発から量産までのリードタイムが長いという特徴を持つ。リチウムイオン電池も進化の途上にあり「現行電池が安定期を迎える頃には次の電池が出てきて新たな投資が必要になる」(電池メーカー幹部)。投資判断を誤れば性能の劣る電池の製造設備を抱え込むことになる。

 トヨタの幹部は「EVはこれまでのクルマほど台数が読めない。(電池)投資の過不足リスクが凄く高い」とも打ち明ける。脱ガソリンを掲げる欧州では、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギーやサプライチェーン(供給網)リスクが浮き彫りとなり、EVシフトに水を差す可能性が出てきた。EVが想定通り売れなければ、電池事業の収益がたちまち悪化し、追加投資や事業再編を迫られかねない。

 通商摩擦や資源ナショナリズムも波乱要因だ。米中間では、経済を切り離すデカップリング(分断)が進むことで、米国で生産・販売する車両は中国電池メーカーからの製品供給および中国由来の原材料を使用した韓国電池メーカーからの調達も困難になる見通し。リチウムやニッケル、コバルトなどの電池材料は、中国やチリ、インドネシアなど特定国に埋蔵や製錬工程が偏在する傾向があり、こうした国による規制リスクも残る。

 電動化シフトは、カーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)だけでなく、各国の産業政策とも一体不可分だ。EVや車載電池はその筆頭でもあり、逆に言えば市場ニーズとかい離していくリスクもはらむ。相次ぎ新型EVを発売する自動車メーカーだが、合弁にしろ内製にしろ、各国の規制やEVの実需、電池技術の進化などを的確に捉えた機動的な電池事業の采配が求められるところだ。

(福井 友則)