アサヒタクシー(山田康文社長、広島県福山市)は、グリーンスローモビリティ(公道走行可能な4人乗り以上の小型低速電動車)によるタクシー事業を全国で初めて開始した。住民の足として、また観光振興にも役立っている。

 福山市鞆地区は日本遺産に認定された歴史ある街並みが残る観光地。海や山に囲まれ風情のある一方、狭い路地や急な坂道が多いことから、通常の車両での走行が難しい一面もある。住民の高齢化率も高く、高齢者の移動手段も長らくの課題だった。

 その解決策として検討したのがグリーンスローモビリティの活用だ。国土交通省による実証調査に応募し、福山市や他の交通事業者とともに調査を行った。実証を行った5都市のうち鞆地区でのタクシー利用者が最も多く、本格運行を望む声も多かったことから事業化に乗り出した。

 全国初となる緑ナンバーでの運行を実現するため、専用のタクシー車両の開発や、道路事情を考慮した安全性を実証し、エリアを限定し許可を得た。鞆の浦が「潮待ちの港」であることから「グリスロ潮待ちタクシー」=写真=と命名し、2019年4月、有料でのタクシー運行開始にこぎ着けた。

 地域住民は、自宅から病院、集会所、買い物など手軽に利用できる身近な乗り物を得て利便性が向上。特に高齢者の外出機会創出につながり、高齢者の健康増進の一助として、さらに地域の活性化に貢献している。

 また観光スポットを巡るコースを設定したことで、観光客が効率よく周遊することも可能にした。開放的で低速な乗り物であることから、観光客からは「鞆の浦の風と匂いを感じられる」などと好評を得ている。

 同社では、これからも既存のバス路線や鉄道、フェリーなどと組み合わせ、地域公共交通ネットワークの支線交通の一つとして「タクシーがやるべきことはすべてやる」方針だ。

(次回は4月15日付、五十音順で掲載します)