SOSコールやプロパイロットはキックスの日本仕様として用意した

 日産自動車は、独自の電動化技術である「eパワー」や運転支援技術を盛り込んだ国内向け「キックス」をタイから逆輸入する戦略をとった。10年前に同国に生産移管した「マーチ」は品質面の不安や販売不振を経験している。コアマーケットの日本向け登録車として約3年ぶりの新型車でもあえてタイ生産にこだわったのは、同国工場を足掛かりに、eパワー搭載車をアジアを中心としたグローバルに展開していく狙いがある。

 日産は2010年にA・Bセグメント向けのVプラットフォームを使った世界戦略車の生産を始めた。この一環として、グローバルでの競争力を確保することを目指し、同年に小型車の世界戦略車であるマーチを日本生産からタイ生産に切り替えた。

 生産拠点を移したマーチだったが、タイ製に切り替わったことや日産のコンパクトカーの主力車種が「ノート」に変わったことなどの要因が重なり、販売台数は低迷。マーチの生産をタイ工場に移管した際にはタイ工場での完成検査後の品質検査を念入りに行うなどの策を実施したが、それでも「かなりの品質不具合が出てお客さまに迷惑をかけた」(山本陽一車両開発主管)と振り返る。

 こうした反省に立ち、今回のキックスの開発では品質面の取り組みを重点的に強化した。タイ工場で生産した車両を追浜工場へと輸送し、日本国内で最終品質の確認と再度検査をした上で市場に出す工程を取り入れた。品質プロセスも追加し、品質・性能をチェックするためのロット生産台数を従来よりも増やして、確認作業を念入りに行う。こうした手間をかけることは、追加工程を要しコスト増などにもつながりかねないが「絶対に不具合を出さないように万全の体制をとった」(同)という。

 キックスの逆輸入のメリットとしてタイを日本に次ぐeパワーの生産拠点へと育成する狙いもある。今後タイを皮切りに、中国をはじめとするアジアや欧州でも同技術の搭載車種を広げ「海外最初のeパワー生産拠点のタイを起点にグローバルに展開する」(同)計画。電動化の分野ではゼロベースで始まったタイの生産体制づくりだったが、eパワーを搭載するノートの生産経験がある追浜工場の人材を現地に派遣することなどにより、現在は自立するレベルまでに仕上がった。

 タイの生産拠点は「エクストレイル」をはじめ多くの生産車種を抱えており、これまで長い時間をかけて現地での調達ルートを確立してきた。今回のキックス立ち上げでも調達面で「困ったことはない」(同)と言い切るまでに現地でものづくりの基盤を整えた。

 世界戦略車の役割を担うキックスだが、主力市場の日本を意識して味付けした部分も多い。大きな特徴の一つが、運転支援システムである「プロパイロット」を日本仕様に専用設定したことだ。先行してタイで発表されたモデルは、同国の道路環境が日本ほど整っていないことなどから、プロパイロットの採用を見送った。

 一方、日本モデルに導入したプロパイロットは外乱に左右されてシステムが誤作動しないように、センサーの検知・作動精度の調整に時間を多く割いたという。緊急時に素早く通報できる「SOSコール」と合わせて全車標準設定する。SOSコールは、改正道路交通法の施行により厳罰化された「あおり運転」行為の対策として用いることができる。

 キックスは今後、日本以外の地域でマイナーチェンジを控える。山本車両開発主管は「eパワーを搭載するかも含め地域に応じて対応していく」(同)と述べ、地域ごとに色を出したキックスを売り出していく考えだ。