ホンダのドラム式電動パーキングブレーキ(EPB)の問題が広がっている。ホンダは8月に全面改良して発売した軽自動車「N-WGN(エヌ・ワゴン)」に採用したドラム式EPBの調達に支障が出たことなどから8月末に生産を停止した。その後、このEPBに不具合も見付かり、12月12日にはリコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。同じEPBを採用する予定だった新型「フィット」はディスク式EPBに変更して調達先も変えることを決定し、これに伴って発売時期が当初予定から3カ月ほど遅れることになった。しかも、ディスク式ブレーキへの変更に伴ってベースモデルの価格がアップするのは必至。ライバルであるトヨタ自動車の新型コンパクトカー「ヤリス」も同時期に投入されるだけに、販売現場は厳しい状況に陥りそうだ。

ホンダはN-WGNにシャシー・ブレーキ・インターナショナル(CBI)製のドラム式EPBを採用した。N-WGNは全車速追従型アダプティブクルーズコントロール(ACC)を搭載したため、渋滞などで前走車が停止した際、停止状態を一定時間維持するとともに、発進に対応する必要がある。このため、電気信号でパーキングブレーキを操作できるEPBを採用した。N-WGNは価格が重視される軽自動車なため、後輪がドラム式ブレーキに適用できるCBIのEPBを採用した。

しかし、CBIのドラム式EPB生産の歩留まりが悪く、必要な部品の量を調達できなくなったことから、ホンダは販売開始から約2週間でN-WGNの生産を一旦停止した。さらに市場では、販売開始からパーキングブレーキの警告灯が点灯してパーキングブレーキが解除できなくなる不具合が続出。ホンダはEPBの不具合原因を特定する作業を継続するとともに、CBIのEPB生産体制の再構築を支援することで、2020年1月末にはN-WGNの生産を再開できる目処が立った。

ホンダは当初「N-WGNはリコールする予定はない」と説明していたが、300件を超える不具合情報が寄せられていた。12月12日にEPBのアクチュエーター内のモータ配線接続部の圧着端子の加締めが不十分なことや、モーターのコンミテータとブラシの製造が不適切なこと、ドラムブレーキシューを拡張・収縮するためのスプリングパッケージの作動ストローク設定が不適切だったなど、製造と設計に問題があったとしてN-WGNのリコールを届け出た。対象台数は9437台。

一方、ホンダは主力モデル「フィット」をフルモデルチェンジして11月に発売する予定だった。新型フィットはグレードを5モデル設定するが、このうち、エントリーグレード「ベーシック」などの一部に、N-WGNと同じドラム式EPBを搭載する予定だった。不具合が発覚したことからホンダは、新型フィットの後輪ブレーキをすべてディスク式に変更、EPBの調達先をコンチネンタルに変更することで新型フィットの市販を2020年2月に延期した。

新型フィットはブレーキをすべてディスクタイプに変更することから車両販売価格、特に廉価モデルの価格上昇が避けられない見通し。しかも同時期には、トヨタがスモールカー「ヴィッツ」を、海外で使っている「ヤリス」に車名を変更して新型車を市場投入する予定で、ガチンコ対決となる。トヨタも新型フィットを意識して、発売開始は2020年2月中旬なのにもかかわらず、2019年10月に新型車の外観や内装を先行公開していた。

結果的にヤリスと同時期の発売になることについて、ホンダの八郷隆弘社長は「以前のように国内のコンパクトカー市場が盛り上がる」と期待感を示す。ただ、ホンダの販売店では、新型車ヤリスより前に新型フィットを投入して「コンパクトカーの需要を少しでも多く刈り取りたかった」だけに、出鼻をくじかれたかっこうだ。しかも、新型フィットは廉価モデルの価格がヤリスに見劣りする可能性は否定できない。

ホンダは2020年3月期連結業績で、EPB不具合問題で国内販売計画を前回予想から5万5000台下方修正した。EPBの不具合問題はホンダの業績にも影響を及ぼしている。