事故車修理の塗装作業において、スタッフの健康面や働きやすい職場づくりのために水性塗料を導入する車体整備事業者が増えている。塗料メーカー各社は、さまざまな製品やサービスを通じて作業を効率的に行うために支援している。特に、時間がかかっていた調色作業は、測色機によって経験が浅くても一定レベルの色が出せるようになった。水性塗料を効率的に使える環境は、着実に整っている。
塗料メーカー各社では、水性塗料について「導入件数、使用量ともに増えている」(日本ペイントの大西正則営業本部副本部長)とみている。ロックペイント(内海東吾社長、大阪市西淀川区)も、25年度に入って件数ベースで前年度に比べて2桁の伸びを示しているという。
車体整備事業者が水性塗料を導入するのは、すでに使用しているディーラーとの取引の継続につなげるという要因のほか、社員の健康面や働きやすい職場を重視するためだ。特に、水性塗料を使えば、工場内のシンナー臭を減らせるため、「人手不足と絡んで(職場環境を)整えようとしている」(アクサルタコーティングシステムズの國宗明宏自動車補修用塗料部営業統括部長)と指摘する。
一方で、溶剤系塗料に比べ、乾燥に時間を要するなど不利な特性もある。この解消につなげるため、塗料メーカー各社は水性塗料の効率的な使い方を提案するなど、車体整備事業者を支えている。
各社が水性塗料などとともに展開しているのが、コンピューターで車体色を測定する測色機だ。調色作業はこれまで塗装担当者の経験や感覚に頼る部分が大きく、わずかな色の調整にも数時間を要することも珍しくなかった。測色機を使えば、この作業時間を大幅に短縮できるようになった。経験が浅い担当者でも、調色が簡単に行える点もメリットとなる。実際、水性塗料を導入する車体整備事業者のほとんどが測色機を所有。日本ペイントによると、調色の時間を従来に比べて30%削減できた顧客もいたと話す。
同社では全国に約20人いる技術アドバイザーが、新たに水性塗料を導入した車体整備事業者に新しい色の対応や季節ごとに塗料を管理する際のポイントなどを直接アドバイスする仕組みを整えている。近年目立つ猛暑への対応など、設備だけではカバーできないことも、指導している。
また、最近では、労働安全衛生法や特化則(特定化学物質障害予防規則)により、化学物質を使用するリスクがクローズアップされている。関西ペイントでは、自動車の補修用塗料を使う場合でもそうしたリスクへの対応を「正しく伝えることがテーマ」(自補修塗料本部自補修塗料営業部の佐藤哲也氏)と考える。そのため、水性塗料の導入を提案する際も、車体整備事業者に「法規制に対応しているのか」と問い掛けている。
デジタル技術の活用も進む。ロックペイントが2月に発表したスマートフォン向けアプリ「ロックポケットナビ」は、新製品の情報や動画などの情報発信に役立てている。特に、分かりやすく情報を知ることができる動画に力を入れており、「文章で説明しづらいことは動画で見せた方が早い」(高野弘行車両塗料営業部長)ことから、月2本のペースで公開している。若いスタッフや外国人に技術を教える上でも有効だという。
アクサルタコーティングシステムズ(東京都港区)は、同社製の測色機と連携した全自動調合機の新製品を来年にも発売する計画。講習や研究などでこの機器をテストしており、「一度使うと(従来の手法に)戻れない」と話す。
月刊「整備戦略」11月号では特集企画「水性塗料を〝効率的に〟活用する」を掲載します。


