HVOの登場でバイオディーゼルが再び注目されている(イメージ)
HVOは専用給油機から給油する
バイオディーゼルの普及を目指すマツダの小島岳二取締役(写真右端)、いすゞの古川和成執行役員(写真左端)

 マツダやユーグレナなどは、次世代バイオディーゼル燃料「水素化処理植物油(HVO)」の普及に取り組み始めた。国内では企業の温室効果ガス(GHG)排出量などの開示が2026年度から義務付けられる見通し。社用車などの脱炭素化が求められる中、電気自動車(EV)以外の選択肢として提案していく。軽油と比べて割高なコストの削減や安定供給のほか、規格化や普及に向けた補助金などの政策課題もある。

 マツダはいすゞ自動車、ユーグレナなどと法人向けの「次世代バイオディーゼル体験会」を都内のホテルでこのほど開いた。企業や自治体から約90人が集まり、試乗機会も提供された。今後も同様の取り組みを続ける。

 次世代ディーゼル燃料はGHGの排出削減の手段となる一方、軽油の倍以上の価格がネックだ。マツダの小島岳二取締役専務執行役員は「供給側は、需要が見込めないと投資ができない。需要側も燃料代が高いと利用計画を立てるのが困難だ。〝鶏と卵〟の状態の打破には、需給ともに脱炭素化の目標を共有し、一時的な負担を許容できる〝仲間〟を集め、供給網の構築に挑戦する必要がある」と話す。

 今のバイオディーゼル燃料は、廃食油をメタノールと反応させて作る「脂肪酸メチルエステル(FAME)」と、水素と反応させる「水素化処理植物油(HVO)」に大別される。HVOは軽油と化学式が同じで、FAMEが向かない長期保管もできる。ただ、HVOで公道を走るには、地方税法(軽油引取税)で規定する軽油の密度規格に適合させる必要があり、今は100%HVOが難しい。

 ユーグレナは、軽油にHVOを51%混合した「サステオ51」の供給を今年、始めた。成分調整で軽油と同等の軽油引取税(地方税)を納められるようにして税法上の問題をクリアした。中国などから輸入した、食品加工工場や飲食店から出た食用油が原料になっている。

 いすゞも、社員の通勤バスにHVO51%燃料を使う。三井住友銀行は今春、社用車にマツダのクリーンディーゼルSUV「CX―80」を導入、燃料にサステオ51の使用を始めた。北海道マツダ(横井隆社長、札幌市中央区)も自社の営業車両などに使いつつ、法人顧客にも提案している。

 各社が今、バイオディーゼル燃料の普及気運を高めようと動き出す背景には、国内企業に脱炭素化への取り組みが求められていることがある。東京証券取引所「プライム市場」の上場企業には、サステイナビリティー(持続可能性)に関する情報開示が義務化される。26年度から時価総額3兆円以上の企業を対象とし、以降も段階的に対象を広げていく方針。社有車のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)対応も求められることになる。

 価格が高く、充電設備などの整備も必要な電気自動車(EV)と比べ、HVOは現行のクリーンディーゼル車を使えば済む。マツダは「製品ライフサイクル全体でのGHG排出量は、電池製造時に多く排出するEVよりも少ない」と主張する。サステオ51を用いたディーゼル車は、輸送事業者や特定荷主(前年度の貨物輸送量が3千万㌧㌔以上の荷主)に義務付けられている「非化石エネルギー転換目標」に基づく「非化石エネルギー自動車」扱いになる。

 HVOには課題もある。軽油より割高な価格のほか、添加率が異なる燃料が複数供給されていることや、流通ルートが法人向けに限定されていることだ。国内の一般的なガソリンスタンドではHVOを扱っておらず、三井住友銀行は駐車場にサステオ51専用の給油機を設置した。給油機は1台200万円ほどかかる。

 クリーンディーゼルエンジンを搭載した乗用車は苦戦気味だが、商用車や建設機械、農業機械などでは今後も主役と見込まれる。HVOの普及には、いすゞなど商用車メーカーの取り組みも重要となる。

 HVOの配送事業を手掛ける平野石油(東京都台東区)の平野賢一郎代表は「次世代燃料として何を国として進め、どう補助するか、早い段階で方向性を見せてもらえることは(普及に向けて意義が)大きいと感じている」と話す。欧州ではHVOへの補助金もあり、ガソリンスタンドでも販売されている。

 ユーグレナの担当者は「信頼感の問題もある」と話す。過去には安価な高濃度アルコール含有燃料がエンジントラブルなどを起こし、社会問題化したこともあった。地域や使い方に応じたパワートレインのマルチパスウェイ戦略を進める意味でも、粗悪な燃料ではないことへの理解を広めつつ、HVOの規格化など普及のための議論を官民で急いで深める必要がありそうだ。

(中村 俊甫)