ネオジム磁石(イメージ)

 電動車両の増加とともに、モーターに搭載されるネオジム磁石の需要が急速に膨らむとみられる中、重希土類(ヘビーレアアース)フリーの開発が進んでいる。プロテリアル(ショーン・スタック会長兼社長、東京都江東区)は、高残留磁束密度と高保磁力を両立した磁石を開発。モーターの高トルク化や小型化、高効率化などにつながると売り込んでいる。大同特殊鋼も開発を発表しており、今後、経済安全保障や脱炭素化に対応する観点で活発な取り組みが広がりそうだ。

 自動車の駆動に用いられるモーターは、100度以上の高温にさらされるため、モーター部品として使用される磁石にも高い耐熱性が求められる。モーターの高トルク化や小型化には高い磁気特性を持つネオジム焼結磁石が適しているが、耐熱性を向上させるため、さらに重希土類を添加する必要がある。

 ただ、重希土類は軽希土類に対して埋蔵量が少ない。需要の拡大が見込まれる中、価格が大きく変動しやすいことや、資源枯渇リスクが高いこと、中国などに依存することが課題となっている。2010年には中国政府が日本に対し、実質的な輸出規制を実施。備蓄があった日本側は実質的な損害はなかったものの〝レアアースショック〟として経済安全保障政策の重要性が再認識された。今年に入ってからも、トランプ米政権の関税措置への対抗措置として、磁石の耐熱性を高めるジスプロシウムやサマリウムを含む7種類の中・重希土類を輸出管理下に置いた。米国自動車部品工業会(MEMA)は「米国の自動車生産に重大な支障をもたらす恐れがある」として強い懸念を表明している。

 プロテリアルは、重希土類を使用せずに耐熱性を高めた重希土類フリーネオジム焼結磁石をこれまでも開発・量産してきた。今回、高まるニーズに対応するため、独自の組織・組成制御技術により、残留磁束密度と保磁力を大きく高め、電気自動車(EV)用駆動モーターの要求性能を満たす高性能重希土類フリーネオジム焼結磁石の開発に成功した。

 駆動用モーターのほか、電動パワーステアリングやコンプレッサーに用いるモーターなどにも適用できる。今後、評価用の試作品を供給するなどして売り込む。

 大同特殊鋼グループで磁石を製造するダイドー電子(渡邉剛社長、岐阜県中津川市)も、重希土類を使わない駆動モーター用磁石の増産を発表している。

 重希土類の使用量抑制の流れの中で、高残留磁束密度や保磁力といった要求特性をどう達成するか、さらなる性能強化へ関係メーカーによる開発が進みそうだ。