水素をエンジンで燃やして走る「水素エンジン車」をトヨタ自動車が急ピッチで改良している。今年は燃焼制御の改善など3つの技術にメドをつけたい考え。燃料電池車(FCV)の陰で下火になっていた水素エンジン車の〝復権〟が夢ではなくなってきた。
トヨタは2021年から水素エンジン車でレースに参戦し、さまざまな技術を実証している。今シーズンは高出力と燃費を両立させる燃焼制御や給水素時間の短縮などに挑む。シーズン最終戦には超電導技術を投入する計画だ。
新たな燃焼制御は、高い出力を出すために十分な量の燃料を燃やす「ストイキメトリー(理論空燃比)燃焼」と、燃費を稼ぐリーン(希薄)燃焼をドライバーのスロットル操作に合わせて自動で制御するものだ。レース中はスロットル開度が大きいため、大半はストイキ燃焼になるが、コーナーへの進入時や旋回時にはリーン燃焼になる。追い越しが規制され、一定速度で走行する「FCY(フルコースイエロー)」時もリーン制御で燃費を稼ぐ好機だ。
マシン開発を統括するGR車両開発部の伊東直昭主査は「切り替えのタイミングを見る。リーン燃焼からストイキ燃焼に戻す時に(アクセル操作に対して加速が)もたつくとか、ギクシャクするとか、そうした問題点が見えてくるはず」と話す。燃焼切り替え時にドライバーが違和感を感じないよう、滑らかな切り替えを目指していく。
給水素時間の短縮に向けては、新たな充填バルブを開発した。これまでは外部のアクチュエーター(作動器)でバルブを開閉させていたが、今回は新構造を採用したことで水素の流量を増やし、充填スピードは約3割早くなった。外部アクチュエーターも不要になり2㌔㌘の軽量化も実現した。
また、ワイヤーハーネスの一部を銅線からアルミ電線に代え、約2割の軽量化にも成功した。銅との電位差による腐食問題は古河電気工業の接合技術で解決したという。
今後の技術的な挑戦テーマとして掲げているのが超電導技術の活用だ。超低温下では電気抵抗がゼロになるという超電導の特性を利用した燃料ポンプ用モーターを開発する。燃料タンク内に組み込むことでタンクへの入熱量を減らし「ボイルオフガス」と呼ばれる水素ガスの発生を抑えるとともに容器サイズを拡大。タンク容量を220㍑から300㍑、水素搭載量を15㌔㌘から20㌔㌘に増やす。スーパー耐久シリーズの最終戦(11月)での搭載を目指し、開発を急ぐ。
水素エンジンは燃料電池(FC)に比べエネルギー効率は劣るものの、既存の部品や整備インフラなど、約100年にわたる内燃機関のノウハウを応用しながら脱炭素化できるのが最大の強みだ。過去には独BMWのほか、マツダも水素ロータリーエンジンを開発していた。大量の電池を積むことが難しい二輪車では、国産4社が研究組合をつくり、水素エンジンの開発を進めている。豊富な研究開発費を持つトヨタがレース現場で関連技術を急ピッチで磨くことで、水素エンジンがカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)時代の有力な〝選択肢〟として復活する期待が高まる。
(編集委員・水町友洋)




