新型には軽で欠かせなくなったスライドドアを装備

 ダイハツ工業が5日発売した新型「ムーヴ」に設定したスライドドアは、今や軽乗用車の6割に搭載される〝必須級〟の装備だ。「タント」などに代表されるスーパーハイト系ワゴンの市場拡大に比例し、搭載率を高めてきた。ダイハツは、かつて軽市場の主流だったハイト系ワゴンに、ユーザーが求めるスライドドアを融合させたムーヴで販売拡大を目指す。 

 スライドドアの歴史は古い。初めて日本車に採用したのは日産自動車の「ダットサンキャブライト」が発売された1964年までさかのぼる。当時は主に商用車向けの装備だったが、80年代から商用バンと車体を共有したワンボックス車などワゴンにも採用され始めた。乗用車では82年に発売した日産「プレーリー」がピラーレス型で登場し、注目を集めた。

 軽乗用で本格的に採用が進み始めたのは、ダイハツがスライドドアを採用した初代タントを発売した2003年当たりから。タントは年を追うごとに販売が伸び、07年に2代目へと全面改良。その翌年にはスズキが「パレット」を投入するなど、次第に軽市場の主流がスーパーハイト型に移行するきっかけとなった。そこに、軽市場で巻き返しを期していたホンダも11年に「N―BOX(エヌボックス)」を発売。スライドドアを搭載したスーパーハイト系の組み合わせが、軽市場でのトップ争いの必須の要件となった。

 各社が成長市場のこの分野に重点的に開発リソースを振り向けた結果、12年に約3割だった軽乗用市場におけるスライドドアの比率は右肩上がりで上昇。24年には6割前後まで高まった。

 一方、1990年代以降の軽市場の拡大をけん引したムーヴやスズキ「ワゴンR」といったハイト系の販売構成比は2000年代以降に減少トレンドに入る。初代のムーヴを販売していた当時、ハイト系を選んでいた若年層やファミリー層は、よりスペースに余裕があるスーパーハイト系の品ぞろえが増えてきたことで移行。ハイト系は子育て終了後の中高齢層が大部分を占めるなど、顧客層が変化してきた。

 もっとも、新型ムーヴの代替母体となるハイト系の保有台数は、1千万台規模と減っていない。この半数は保有年数が8年以上と、長期保有客の割合が高い。さらに、ある販売店では「ハイト系の顧客はハイト系を選び続けている顧客が多い」との特性を明かす。その上、「新型車がしばらく出ておらず、スーパーハイトと比べて保有期間が長くなっている」(販売促進担当者)ことから、新型ムーヴの発売は代替を促進する大きなチャンスと成り得る。

 そこで、ダイハツは新型車の開発に向けて市場調査を実施。ハイト系の購入者のうち4割がスライドドアを持つスーパーハイト系の購入をいったん検討したことが分かった。ただ、「価格の高さなどを理由にハイト系を購入した」という。スーパーハイト系に比べて値ごろなハイト系に、ニーズの高いスライドドアを組み合わせることで、代替を見送っていた層も掘り返し、受注拡大に弾みをつけていく考えだ。

(水鳥 友哉)