日本もバイオマス燃料を使ってはいるが…

 トヨタ自動車が国産バイオマス(生物由来)燃料を開発していることが分かった。安く、安定的に供給できるよう、材料となる植物の成長を促す研究を本格的に始めた。食料と競合しない「非可食性植物」でエネルギー自給率を高め、「マルチパスウェイ戦略」に欠かせないガソリンスタンド(給油所)の減少に歯止めをかける狙いもある。

 ガソリン代替のバイオ燃料は、とうもろこしやさとうきびなどから製造されるバイオエタノールが主流だ。燃焼時に出る二酸化炭素(CO2)は、これら植物の成長過程で吸収されたCO2のため、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)と見なされる。ガソリンに5~20%ほど混ぜるのが一般的だが、専用エンジンならエタノールだけでも走る。バイオエタノール燃料の普及を国策にしたブラジルでは、ガソリンでもエタノールでも走るFFV(フレックス・フューエル車)が普及する。

 使用過程車を含め、輸送部門のカーボンニュートラル対策の〝即効薬〟になるため、多くの国で活用が進む。日本でもE10(エタノール10%混合)が使えるようエンジンや燃料の規格が整備され、石油元売りに対し、原油換算で年間50万㌔㍑分のバイオエタノールを使うことを法令で義務付けている。ただし、製油所や給油所を改修せずに済む添加剤(ETBE)としてガソリンに混ぜている。

 インドが2025年までにE20、ブラジルはFFV以外にもE30の普及を目指すなど、各国が混合率を高めはじめた。日本でも経済産業省が30年代早期に乗用車販売(新車)の100%をE20対応とし、40年度からE20の供給開始を打ち出した。

 ただし、エタノールの自給率をみると、ブラジルや米中印などが100%、メキシコやフランスが70%前後、フィリピンや英国が40%前後なのに対し、日本はゼロだ。年間50万㌔㍑分のバイオエタノールも輸入に頼る。単純に混合率を高めれば国富の流出につながる。

 このためトヨタは、スモモの一種である「ソルダム」に着目。赤色灯を使い成長を早めた後、ゲノム編集を駆使して赤色灯がない状態でも促成成長を再現する研究を進めている。このソルダムを農家などに供給し、トヨタ生産方式(TPS)をはじめとした改善手法を通じ、限られた作付面積で収穫を最大化し、国産バイオエタノールとして使う考えだ。

 トヨタがバイオ燃料の普及を急ぐ背景には、給油所網を維持する狙いもある。資源エネルギー庁によると、国内の給油所数は2万7414カ所(24年度末)とピーク時の半分以下。今も減少に歯止めがかかっていない。バイオ燃料は、既存のインフラで使用過程車を脱炭素化できる点が最大の特徴だが、それには給油所網の維持が前提だ。

 バイオ燃料をめぐっては、ホンダも藻を研究しているほか、マツダはユーグレナのバイオ燃料製造プラントに出資している。カーボンニュートラルへの〝選択肢〟や経済安全保障を保つ上で、液体燃料の脱炭素化や国産化は必要不可欠だ。トップメーカーのトヨタがバイオ燃料の研究に着手した意義は大きい。

(編集委員・福井 友則)