角田裕毅選手の活躍などで沸いた日本GPだが水面下では変化の必要性に迫られている
主に国内企業へ、事業面の魅力を伝える「ビジネスカンファレンス」を初開催した
サーキットの内外に人だかりができ 交通アクセスなどに大きな課題を残す

 F1(フォーミュラワン)世界選手権の日本グランプリ(GP)が4月4~6日、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開かれた。今年も国内外から延べ26万6千人のファンが来場した。活況だった一方で、水面下で関係者は危機感を募らせている。F1は近年、世界的に若年層のファンが急増したことで、ビジネス面でも世界中の企業から注目を集めている。ただ、日本企業からは相変わらず関心が薄く、日本のファンの平均年齢も高齢化しているのが実情だ。収益面も含め、日本GPは岐路に立たされている。

 今年の日本GPは開催直前に、唯一の日本人ドライバー、角田裕毅選手が強豪レッドブル・レーシングに加入したこともあり、例年以上の盛り上がりを見せた。海外からも多くの観客が訪れ、会場では至るところで英語が飛び交っていた。

 近年、F1はプロスポーツとして注目度が急上昇している。2017年に経営権を得た米リバティ・メディアはSNSなどでの情報発信を強化。動画配信サービス「ネットフリックス」でのドキュメンタリー番組の配信効果もあり、運営会社によると新規ファンの約8割が35歳以下で、同社の24年の総収入は、17年からの8年間で倍以上に急増した。若い富裕層への発信強化を狙い、ルイ・ヴィトンを傘下に持つLVMHなど、グローバル企業が続々とスポンサー契約を交わす。ほかにも海外では、スポーツベッティング(賭博)やデータマネジメントなどの関連ビジネスも拡大している。

 ところが、国内のF1への関心度は世界と隔たりがある。現在、F1チームを支援しているのはホンダとトヨタ自動車、建機大手コマツなどごく一部に限られる。ファンの推定平均年齢も日本GPの場合は48歳と、世界平均の37歳と比べて高い。

 〝ガラパゴス化〟の打開に向け、サーキットを運営するホンダ子会社のホンダモビリティランド(HML、斎藤毅社長、三重県鈴鹿市)は、今年初めて現地で「ビジネスカンファレンス」を開催した。例えば広告では、F1は中継を通じて国内外の数百万人の目に触れることができる。さらに関係者エリアはスポンサー企業の経営者も多く訪れ、ビジネスマッチングの場としての顔も持つ。

 カンファレンスには、商社から不動産、コンサルティングなど幅広い分野から70社超の企業が参加。ビジネス面での活用事例や可能性について説明した。

 若年層と新規ファンの開拓では、東京・台場エリアで関連イベントを実施している。今年はマシンのデモ走行やレースの中継、音楽ライブなどを開き、4日間で約3万3千人が訪れた。

 ただ、状況打開は簡単ではない。F1全体を見るとファン層は欧米が中心で、国内では相変わらず野球やサッカーに比べて認知度そのものが劣る。テレビでの全戦無料中継も15年シーズンで終了した。

 日本GPをビジネスに活用する上で深刻なのが交通アクセスの悪さだ。特にF1開催中は名古屋駅からサーキットまで、自動車での移動でも通常の倍以上となる2~3時間を要する。チケット価格も値上がりが続き、今年のメインスタンドでの観戦券は大人9万円から。若者やライトファンには敷居が高い。

 近年はF1の開催権料が高騰し、ドイツやフランスなど自動車大国も開催できていない。鈴鹿サーキットでの日本GPの開催契約は29年までで、HMLの斎藤社長は「いかに日本、鈴鹿でF1をやる価値をつくれるか。しっかり取り組まないと30年以降の開催だって安心できるものではない」と危機感を示す。開催継続に向けたスポンサー探しも急務となっている。

 今年は決勝レース前に歌舞伎が披露されるなど、日本の伝統文化を取り入れた新たな試みも行われた。好調な客入りの裏で、持続的な開催と魅力度アップに向け、日本GPは試行錯誤している。

(中村 俊甫)