認証不正に揺れたダイハツ工業。新経営陣の下で再発防止策づくりや信頼回復に取り組んだ1年を終え、事業の拡大へアクセルを踏む環境が整いつつある。特に海外市場でこれまでの軽自動車技術を生かしていく考えだ。井上雅宏社長にオンラインで取材し、今後の戦略などを聞いた。

 ―社長就任から1年経った

 「昨年1年間は再発防止に重きを置いて過ごした。2025年になり、国土交通省にファイナルレポートを提出して受理いただいた。再発防止の仕組みとして基礎的なところがきちんとできたので、今後は再発防止策を守りつつ『再スタートを切る』というのが社内へのメッセージだ。問題を起こしてしまった認証の部分は強化し、プロセスをきちんとやる仕組みをつくり上げた。販売や生産、物流、開発、人材育成など、一気にアクセルを踏んでやっていく」

 ―新型車プロジェクトの進ちょくは

 「私がダイハツに来る前から進行していたプロジェクトはあったが、開発や認証の見直しで止めていた。今は再開しているが、法規対応で断念しなければいけなかったものもある。足元の回復はできるかもしれないが、(新型車開発の中止による)将来への心配に直面している。ただ、国交省にも認めていただいた再発防止策を守ることを前提にエンジニアが再スタートを切っている。ダイハツは販売力が強く、ファンも多い。顧客が求める車を出していければ元に戻る日は近い」

 ―国内販売回復に向けては

 「挽回のために品ぞろえを充実させる。きちんと商品を出すというのがメーカーの使命であり役割だ。販売会社にはしっかりマーケティングしてもらい、顧客に届けてもらう。地方で顧客をつかんでもらっている業販店は、マルチブランドを扱う事業者さんが多いので、ここはダイハツを選んでもらうしかない。一度、信頼を失ったので、現場に行って頭を下げるしかない」

 ―インドネシアの工場に新たな生産ラインを設置した

 「現在のインドネシアの年産能力は53万台。このうち約3割を輸出している。スンター工場は狭くて拡張性がなく、労働者にとって作業性が厳しかった。今回、カラワン工場に新ラインをつくったことで、今後は全く異なるレベルの能力増強ができるようになる。アジアは今、金利が高くて少し経済が落ちているが成長性はある。カラワン工場を使った輸出が非常に大切になってくる」

 ―社長就任時から中南米への展開にも意欲を見せる

 「ダイハツブランドとして販売しているのは日本とインドネシアで、マレーシアは『プロドゥア』ブランドだ。それ以外の国では、ダイハツが設計した車をトヨタブランドとして販売している。トヨタグループの中のダイハツなので、(中南米で)改めてブランドを立ち上げ、販売網を一からつくるとなると、最低でも10年や20年はかかる。今は『ハイラックス』や『カローラ』などでトヨタがしっかり根を張っている地域に対し、ダイハツが車を設計してつくり、トヨタブランドで販売するのが一番、効率的だと思っている。その地域への供給基地としてカラワン工場は重要となってくる」

 ―DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)車はトヨタ工場でも生産されている

 「タイで販売しているトヨタ『ヤリスエイティブ』は、ダイハツが設計し、タイトヨタでつくっている。(開発を)2年間止めていたので、トヨタでの生産を実現しつつ、次はさらに良い車を出していかないといけない。インドネシアにも実際に来てみると、中韓勢がかなり攻めてきている。今から開発しないと間に合わない」

 ―タイと同じような取り組みを広げていくということか

 「確実に動いている。ダイハツが得意なのは軽やA、Bセグメント。ダイハツの小さく、軽く、薄く、原価の安い部品でつくることで競争力のある車を提供できる」

 

〈プロフィル〉いのうえ・まさひろ 1987年3月同志社大学経済学部卒。同年トヨタ自動車入社、生産管理部三好工場。94年ブラジルトヨタへ出向し、96年トヨタ自動車中南米部、2004年海外企画部グループ長を経て、07年米州営業部室長。11年ブラジルトヨタ副社長、14年トヨタ自動車第2トヨタ企画部室長、19年中南米本部長・ブラジルトヨタ会長・アルゼンチントヨタ会長・ベネズエラトヨタ会長、24年3月から現職。1963年9月生まれ、61歳。

(藤原 稔里)