未完成の街で共創活動―。トヨタ自動車は、静岡県裾野市に建設中の実験都市「ウーブン・シティ」の一部を公開した。人が実際に暮らしながら今秋に実証を始める「フェーズ1エリア」で、自動運転車の開発などに使われる道路や交通インフラ、街全体の物流やエネルギー供給などを担う地下エリア、プロダクトやサービスを開発するインベンターズ(発明家)と住民(ウィーバーズ)が集う施設などを披露した。
ウーブン・シティは2020年12月に閉鎖したトヨタ自動車東日本・東富士工場の跡地で建設を進めている。子会社のウーブン・バイ・トヨタが事業を担い、異業種やスタートアップなどと連携しながら、「人」「モノ」「情報」「エネルギー」の4領域において、新たなモビリティの価値を創出するための「モビリティのテストコース」と位置付ける。
ウーブン・シティ全体の広さは29万4千平方㍍に及ぶ。今回公開された第1期エリアは約4万7千平方㍍で、街の真ん中には公園スペース「コートヤード」が広がり、ウーブン・シティの玄関口となる「ウェルカムセンター」、全面ガラス張りの「カケザン・インベンション・ハブ」など、8つの住居棟を含む全14棟の建物が並ぶ。
カケザン・インベンション・ハブは、住民とインベンターズがつながる施設だ。開発段階のプロダクトを住民が見て、触って、フィードバックし、改善につなげていく場で、インベンターズとウィーバーズが一緒に新しいものをつくる共創活動が行われる。
コートヤードは街の中心となる公園スペース。モビリティサービス専用の電気自動車(EV)「eパレット」を活用した店舗が並んだり、イベントなどが開かれる。
コートヤードを囲む道は自動運転車の開発などに利用される。さまざまな実証を行うための環境が整備されており、信号機はあらかじめ電源やローカルネットワークを備える。新たなセンサーやカメラなども後付けで取り付けられるよう拡張性を持たせた仕様で、信号の制御を変えることで渋滞緩和の可能性などを検証する方針だ。
ウーブン・シティでは街全体に地下エリアが広がる。地上の建物がすべて地下でつながっているのが特徴で、地下空間で物流を完結させる仕組みを導入する。物流センターで一手に荷物を引き受け、ここから各建物に荷物を配達する。家庭への宅配にはロボットも活用する計画だ。
また、各建物に電気や水素などを供給するエネルギー設備やネットワーク回線なども地下に設置される。
ウーブン・シティの街づくりは、デジタル上に作られたウーブン・シティで事前にシミュレーションした上で、リアルな生活環境下で実証を進めていくことになる。デジタルツインを活用し「デジタルとリアルを相互に使って良いものを早くつくっていく」(ウーブン・バイ・トヨタの豊田大輔シニア・バイス・プレジデント)考えだ。
現在、実証実験にはダイキン、ダイドードリンコ、日清食品、UCCジャパン、増進会ホールディングスの5社がインベンターズとして参加することが決まっている。
トヨタグループ各社も期待を寄せており、トヨタ紡織の白柳正義社長は「実際に人が住み、より良い移動空間をつくり上げる上で、どのような実証実験ができるのか。スタディーしながら活用していきたい」と語った。ジェイテクトの近藤禎人社長も「グループとして共創しながら、当社のコアコンピタンスを最大限に活用できる対話を継続的に行う」と話した。豊田合成の齋藤克巳社長は「水素を使った発電や無線給電など暮らしの中でも使える技術を蓄えている。ウーブンの中でどう実証できるか話を進めていきたい」と意気込む。
まずは今秋以降、トヨタやウーブン・バイ・トヨタなどの関係者とその家族、約100人が生活を始める。その後はインベンターズなどが入居し始め、フェーズ1エリアでは最終的に約360人が生活する。現在、造成工事を行っているフェーズ2エリアを含めると、将来的には2千人程度になる見込みだ。
さまざまな実証実験が行われるウーブン・シティ。豊田シニア・バイス・プレジデントは「トヨタは『石橋を叩いて壊す』と言われるかもしれないが、ここでは『叩く前に渡ってみよう』だ。壊れても下は安全だという場所がウーブン・シティ。『まずはやってみよう』ができる場所、そのサポートができる場所だ」と力を込める。
このコンセプトを具現化するもう一つの施設が「インベンターガレージ」だ。開発やものづくりを支援する施設で、東富士工場のプレス工場を改修して造られる。約6万5千平方㍍の敷地には工作機械などを設置する予定で「ものづくりスペースとして準備を進めている」(担当者)という。
豊田章男会長は竣工式で「ウーブン・シティは更地の上にできるのではない。半世紀にわたり、自動車産業と地域のために働き続けた仲間の思いの上にできる街。クルマ屋たちの夢の跡だ」と語った。
1967年の操業以来、53年間にわたり多様な車を生産し、改善を続けてきた東富士工場。その歴史と文化は、トヨタがモビリティカンパニーに変革する中で、ウーブン・シティの挑戦を支える強固な基盤となる。
(編集委員・水町 友洋)