Zジェネレーションキャビン
保田社長(右)と鳥羽専務執行役員
ウームモード
クルービジョン
ファミリーコンフォートキャビン
助手席側をフラットにしたチャイルドファンキャビン

 自動車用シートや内装部品を手がけるテイ・エス テック(TSテック)は、自動運転車など、次世代自動車向けの車室空間を見据えて開発した技術を結集した「次世代車室内空間発表会」を都内で開催し、次世代技術を自動車メーカーなどに提案した。今回は1990年代後半から2000年代前半に生まれたいわゆる「Z世代」を意識した車室空間や子育てのサポートにつながる技術などをアピールした。

 同社が次世代自動車の車室空間向けに開発している技術を集めて公開するのは今回が2回目だ。2年前の前回、自動車メーカーの幹部や購買担当者などから好評だったことから開催した。同社の保田真成社長は「前回は『(このシートは)車に本当に入るのか』などの意見をもらったが、今回は実際に車両に搭載できるものを、気合いを入れてつくった」と述べ、実用的な提案に絞ったことを明らかにした。

 実車を想定した車内空間としては3タイプのコンセプトカットモデルを展示した。

 若年層向けの「Zジェネレーションキャビン」は、同社のZ世代の社員が考案した。開発メンバーは、コロナ禍でリアルな交流が出来ず、人との距離感や付き合い方に慣れていないことが若者世代特有の課題と位置付け、「コミュニケーションが取りやすいキャビンを目指した」(同社・開発担当者)という。

 具体的にはシートバック上部の一部をなくすことで前席乗員が後ろを振り向いて後部座席の乗員と顔を見ながら会話がしやすい構造の「コミュニケーションシート」を採用した。完全自動運転車で、座る場所にかかわらず乗員同士がコミュニケーションを取るケースを想定して製作した。

 また、ディスプレーをコンソールに埋め込んだ「アイランドテーブル」やデジタルルームミラー「クルービジョン」などを使って、エンタテインメント機能を乗員全員が楽しめる空間を目指した。

 Z世代キャビンには、社会生活で嫌なことや悩みがある時、停車中の車内を安心できる空間として活用する「ウームモード」も開発した。Z世代が抱える悩みとして「SNS(ソーシャルネットワークサービス)の『キラキラ投稿』などをみると卑屈な思いにとらわれて自信が持てなくなるとの声も多い」という。ウームモードでは、適度に発熱して膨らむ専用クッションを抱えながら胎児のような姿勢を取ることで安心感が得られるという。頭の部分はキャノピーに覆われ、AI(人工知能)で対応するバーチャルキャラクターが優しく励ましの言葉をかけてくる。「人が安心できる匂い」も出して、五感を通じて乗員に癒しを提供する。

 一方、若いファミリー向けには、ミニバンの広い室内空間を生かす「ファミリーコンフォートキャビン」を提案。小学生の子供2人を育てる家族を想定し、シーンに応じてシート間の協調制御によって自在なシートアレンジを実現する「ロングスライドレール」を開発した。家族の会話が盛り上がるように工夫を凝らしたもので、移動時間を快適にする。骨盤を起こし、温めてほぐす「フェムテック機能搭載ヘルスケアシート」も設定しており、車室空間で疲労軽減やヘルスケアにつながる機能も持たせた。

 軽自動車をベースに子育てファミリーを想定した「チャイルドファンキャビン」は、両親や小さい子どもらの「あったらいいね」の声を、新しい機能として採り入れた。例えば助手席をフルフラットにして乳幼児のオムツを車内で交換しやすい構造にした。停車中にすべてのシートをフルフラットにすれば子どもが遊ぶ空間にできる。

 「リアシートハイト機構」は、子どもの視界を広げるため、座席を高くできる機能で、備え付けてある折りたたみテーブルで勉強や絵を描くことなどに活用できる。「実際に子育て中の社員や社員の子どもを呼んで使いやすさなどを調べた」(同社・担当者)という。

 これら車室空間のコンセプト以外にも、植物由来の素材や再生材料で生産した「サステナブル二輪シート」や、乗員の姿勢や心拍を検知してマッサージする「ヘルスケアシート」、四輪バギー向けの「タフ&ファンクショナルバギーシート」なども展示した。

 TSテックで開発・技術部門を担当する鳥羽英二専務執行役員は「自動車に求められる価値は着実に変化しており、内装品領域にも新たな機会が訪れている。車室内空間でも新たな発想による新しい価値を提案していく」という。目で見て、直接触れる次世代自動車向け「未来の車室内空間」を、自動車メーカーに提案して事業の拡大につなげていく方針だ。