損害保険業界の一連の不祥事を受けて、保険業法等の改正案を議論する金融審議会(首相の諮問機関)ワーキンググループ(WG)の5回目会合が5日開かれた。議論をまとめた報告書案が示されたが、一連の情報漏えい問題についても「早急に必要な措置を講ずるべきである」と指摘された。金融審が情報漏えい問題に言及するのは初めて。多くの課題が指摘されている業界慣習の「テリトリー制」と情報漏えいは密接に関係している。金融庁も情報漏えい問題を重視しており、最終的には行政処分につながる可能性もある。
報告書案には「WGを開催する中で情報漏えいが相次いで認められて誠に遺憾。現在(監督局)で事実関係の把握、真因分析などが行われているが、その内容を踏まえて、早急に必要な措置を講ずるべき」と盛り込まれた。
情報漏えい問題は5月に発覚、徐々に詳細が判明してきた。2種類あり、1つ目は、損保の社員が乗合代理店や地方銀行などに出向した時に、そこで他社の情報を入手して母体に報告していた。母体から指示が出ていたり、営業に利用したりしていたものもあった。
2つ目は、損保大手4社の顧客情報が、乗合代理店を通じて競合他社に漏れ、各社がそれを黙認していた。日本損害保険協会(損保協)の城田宏明会長(東京海上日動火災保険社長)は、テリトリー制のために情報漏えいが起きやすい面があったことを認めている。テリトリー制はディーラーが店舗ごとに推奨する損保を決めるもの。この社は幹事のような役割を担うこともある。情報漏えいは結局、4社で約250万件(8月末)あった。
金融庁幹部は「この件については、われわれも相当重く見ている」と話す。金融庁は7月に4社に「報告徴求命令」を出したが、11月に2回目の命令を出した。顧客情報だけではなく、独占禁止法や不正競争防止法に抵触するものも持ち出していた可能性があるとみているためだ。
4社の報告の期限は12月13日。金融審WGの報告書をまとめる最終会合と同じ日だ。
金融審を運営する金融庁幹部は、当初は情報漏えいを議論するつもりはなかったが、庁内やメンバーなどから「損保の構造的問題」として指摘されたとみられる。行政処分の可能性について否定しない幹部もいる。もし処分が出れば、この約1年で1社は3回目、3社は2回目になる。
一方、今回の報告書案では、代理店判断での推奨商品販売を禁止することが盛り込まれた。改正金融サービス提供法に基づき、顧客の意向で商品を販売する。
これは、監督する立場の損保を振り回す力の源泉になっていて、各社に便宜供与を競わせていた「テリトリー制」が機能しなくなる可能性がある。
また、特に大きな乗合保険代理店で、整備工場などを持つ「特定大規模乗合保険募集人」(仮称)を設定することも加えられた。「法令等遵守責任者」「統括責任者」を置き、新しい試験制度で合格することを義務付ける。ただ、大規模乗合代理店を監督する法的根拠をもった自主規制機関の設立は見送られる。