損害保険業界の改革をめぐり、複数の損保会社の商品を取り扱う「大規模乗合保険代理店」が会員にいる日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤敏彦会長)の幹部が「商品の差別化ができていないのが問題」との主旨の指摘をした。乗合代理店には各社の商品の違いなどを顧客に説明する「比較推奨販売」が求められるが、「細かな違いはあるが補償内容、保険料はほとんど変わらない。差別化された商品があって初めて比較推奨販売の適正化が意味を持つ」との考えからだ。自動車保険の商品差別化の最新状況はどうなっているのか。

 自販連幹部の発言は保険業法等の改正を議論する15日の金融審議会(首相の諮問機関)ワーキンググループ(WG)で出た。WGでは乗合代理店の規制強化に向けた議論が進んでいる。自動車流通の現場への影響が大きいことを懸念したものとみられる。

 自動車保険料は事故歴や車種などによって異なるが、通常で年間6万~7万円程度、車両保険を入れて10万円弱ぐらいが一般的だ。対人や対物といった基本的な補償内容に、大手各社とも大きな違いはない。各社は細かな特約やサービスを付加することで、差別化しているのが実情だ。

 例えば、東京海上日動火災保険はドライブレコーダー付きの「ドライブエージェントパーソナル」において、事故時にオペレーター2人で対応する手厚さを競合商品との差として強調している。あいおいニッセイ同和損害保険は通信機能付きの「テレマティクス保険」で集めたデータを顧客と社会に還元することをアピール。損害保険ジャパンは23年4月から導入しているスマホアプリ「SOMPOドライブ」で運転診断を行い、一定の点数を超えれば割引になる仕組みを取り入れている。

 また、三井住友海上火災保険は「顧客本位」で自動車保険の開発や売り方を大きく見直し、顧客の細かい要望を丁寧に商品に反映させることを重視する姿勢を強め、信頼獲得を目指すことで違いを出していく方針だ。

 保険商品はこうした細かな部分で競っているのが実情だが、やむを得ない面もありそうだ。近年で言えば、「車両新価特約」「ドライブレコーダー特約」「安全運転度に応じた保険料の割引」「ワンデー保険」など、差別化した商品が発売されたケースもあったが、売れる商品だとすぐ他社が追随。思うように商品面で差が付かない実態がある。

 保険システムは戦後「同一商品・同一価格」が続いた。1998年に損害保険料率算定会(当時)の料率の使用義務が廃止され、保険料の自由化が始まった。しかし、現在も保険料コストを計算する損害保険料率算出機構(早川眞一郎理事長、東京都新宿区)が算出した「参考純率」を金融庁が認可し、それを参考に各社が保険料を決めるシステムになっているため、似たような料金になる。

 今後もさらに「似たり寄ったり」が進む可能性がある。契約数も伸び悩み、部品や工賃の物価上昇で自動車保険は赤字になっている。経費削減のために、他社との差別化のポイントとなっている「特約」の整理が進む可能性もある。

 

〈記者の目〉「乗合」転換期に

 自動車販売店などの大規模乗合保険代理店は、今後は取り扱う保険会社を1、2社に絞ることも選択肢ではないか。金融庁は大規模乗合保険代理店により厳しい体制整備義務を課す方針。コストや手間は増える。これまで全面支援してくれた損保からの出向のほか、サポートにも限りが出てくる。現在の制度を逆手にとったテリトリー制も難しくなる。商品がより似てくる可能性もある。少しでも保険の販売を伸ばすために損保と自動車販売店でつくり上げてきた「乗合」というシステムは転換期に来ている。

(編集委員・小山田 研慈)