24年の参戦車両
ダカール・ラリー2025に挑むチームメンバーと小木曽聡社長(後列右)、脇村誠CTO(後列左)
参加するメカニック(左から青森日野の柏谷さん、南関東日野の邵さん、長野日野の上原さん)
壮行会でメッセージを送る小木曽聡社長

 日野自動車は、2025年1月にサウジアラビアで開かれる「ダカール・ラリー2025」に参戦する。1991年に参戦して以降、33回連続で完走。トラック(カミオン)部門でのトップを目指す。足元の経営状況が厳しい中でも、同社が参戦を継続する大きな理由の一つが、優秀な人材の確保・育成だ。「世界一過酷なラリー」を走り抜けるには、高性能な車両だけではなく、メカニックをはじめとするサポートメンバーの技術力が不可欠。世界中からプロが集まる競技を通じ、技術者や整備士の能力を高める機会として、今大会も役立てていく考えだ。

◆選抜試験突破した3人が新たに

 「新しい可能性のある若い人を日野に集める原動力になっている」と、脇村誠CTO(最高技術責任者)は、連続参戦の意義を強調する。ダカール・ラリーは砂漠地帯など、道なき道を約8千㌔㍍、2週間かけて走行する。完走率が最低20.5%を記録したことがあるほど、過酷な競技だ。日野は、日本レーシングマネージメント(菅原照仁代表、東京都渋谷区)と組み、「日野チームスガワラ」としてトラック部門に参戦し続けている。25年は1月3~17日に、7759㌔㍍のコースを走行する。

 今回参加するメンバーは、チーム代表とドライバーを務める菅原氏のほか、ナビゲーターやサポーター、メカニックなど計12人。先代の父・義正さんからチームの運営を引き継いだ菅原代表は、「サポートメンバーなどが経験を積み、みんな頼もしくなっている」と語る。

 メカニックは販売会社の整備士の中で、選抜試験を突破した3人が加わる。今回は青森日野(築山治郎社長、青森市)の柏谷壮一郎さん、南関東日野(河﨑俊哉社長、東京都港区)の邵相権さん、長野日野(水野右社長、長野市)の上原智史さんで、2日間に及ぶ実技やグループワークなどを通じて選考した。菅原代表は「(試験は)モチベーションの高い人が集まったが、その中でもトップクラスだ」と評価する。

◆「活動続けて」協賛会社から熱い声

 販売会社の整備士を派遣する体制としたのは1995年から。系列販社の整備士の士気向上に加え、優秀な人材確保につなげる狙いがある。レースに参加した整備士自身のスキルアップにつなげるだけではなく、得られた知見やノウハウを各販社に持ち帰り、若手整備士に伝えることにも効果を上げている。脇村CTOも「販社の整備士の中心となる人がほとんどで、各社に還元してほしい」と話す。

 参戦車両も進化した。エンジンは大型トラック用の「A09C」をベースに、レース用に改造。市販用は最高出力が300馬力台のものが多いが、816馬力まで高めたという。菅原代表は「中身を変えずにチューニングを頑張った」としている。エンジンの改良は日野の開発者が通常業務と並行して行っており、市販用エンジンの耐久性や品質の向上などにも寄与できるという。

 エンジンの認証不正問題が発覚して以降、厳しい業績が続く日野。25年3月期は過去最大の赤字となる見通しだ。脇村CTOは「経営状況は苦しく、今回も参戦するか社内で議論した」と明かす。ただ、「ほとんどの協賛会社から『活動を続けてほしい』という声をいただいた。応援してくれる人たちの期待を裏切るわけにはいかない」と参戦を決めた。小木曽聡社長は「自動車産業にとってモータースポーツは大切。『かっこいい・面白い』といった視点で応援してもらえるとうれしい」と話した。

 28日には日野の本社(東京都日野市)で壮行会を実施。整備士の家族や、販売会社の社長ら、協賛会社などが参加し、チームメンバーにエールを送った。

(藤原 稔里)