村田製作所が開発中のCO2吸着フィルター。1グラム当たりサッカー場ほどの表面積を持つ
住友電工が開発したCO2由来の新素材「metacol(メタコル)」

 二酸化炭素(CO2)を回収し、資源として再び用いる「カーボンリサイクル」の取り組みが自動車部品業界で広がっている。大気中のCO2を分離・回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)技術では、日本ガイシやGSユアサなどが技術を競う。住友電気工業は、回収したCO2を原料とする新素材を開発した。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の実現には、排出抑制に加え、発生したCO2を除去するネガティブエミッション技術が不可欠だ。各社は、自社の技術を生かして新たな商機を狙う。

 経済産業省によると、2050年にカーボンニュートラルを実現するには、世界で35年に40億㌧、50年に76億㌧のCO2分離・回収が必要になるという。関連技術の市場規模はプラントや素材、薬品などを含め50年に年間10兆円ほどに膨らむと試算されている。

 火力発電所などで発生する高濃度の排ガスを回収する技術はすでに実用化されており、日本はこの分野のプラント建設でトップシェアを誇る。今後も国際的な競争力を保つには、従来技術のコスト低減に加え、DACの実用化がカギを握る。

 DACの手法の一つが、固体にCO2を吸着させる方法だ。大気中に約0.04%と希薄なCO2を効率よく取り込むため、表面積を大きくできるハニカム構造体のフィルターなどに吸着させ、加熱により放出させる。日本ガイシは、自動車排ガス浄化用セラミックスの技術を応用し、表面にCO2吸着剤を塗布した角型ハニカム基材を開発。25年大阪・関西万博の「未来社会ショーケース事業」におけるDAC実証装置への採用が決まっている。

 村田製作所は、CO2吸着材として金属有機構造体(MOF)をコーティングしたセラミック基材を開発中だ。特徴はCO2を分離する際の温度にある。固体吸収法では、工場の排熱を利用することなどを前提に100度を超えるケースもあるが、同社は60度と低温でCO2を分離できるようにした。同社は「実用段階では、排熱を利用できないなどさまざまな状況が考えられる。省エネの観点からも低温化は必須」と、今後さらに低温化を進めていく考えを示した。

 自動車の内装材や精密機械工場などで使用する環境対応フィルターを手掛けるユニックス(山岸弘樹社長、滋賀県愛荘町)は独自製法でCO2吸収剤と骨材を混練したフィルターを開発した。

 吸着材を多孔質体や骨材に添着やコーティングするのではなく、直接ハニカム形状に加工するため、含有比率が70%と高く、製造工数の削減も実現している。さらに、熱への安定性が高く、500度の高温でも品質が劣化しないという。

 GSユアサは、京大発のスタートアップであるOOYOO(ウーユー、並木義雄社長、京都市下京区)と組み、コスト面で有利な膜分離法を用いた装置の開発に取り組む。

 回収したCO2は現在、地中や海底に貯留する手法が主流で「大規模集中的な処理に有効」(住友電工アドバンストマテリアル研究所の馬場将人主席)とする一方、場所によっては漏出や地震を誘発するリスクもある。将来的な回収量の増加を見込む中、「小規模分散的なCO2の処理に有効」(同)な、リサイクルの選択肢拡大が期待される。

 住友電工は回収したCO2を金属と反応させ、粉末状の素材を生成する技術を開発した。使用する金属によって、紫外線カットや強度向上、難燃性など、異なる機能性を付加できる。7月には、同社のCO2吸収・固定化装置が、東急リゾートタウン蓼科(長野県茅野市)のゴルフ場内にあるバイオマス(生物由来)ボイラーに導入され、ゴルフティーなどとして提供されている。

 ハウス栽培など施設園芸の品質や収穫量を高める目的で、CO2を活用する農法も注目されている。「スマート農業」向けのセンサーなどを供給する村田製作所がニーズを見込むほか、ユニックスも25年度中の装置の発売を目指している。

 厄介者のCO2が新たな価値を生み出す―。夢の技術が当たり前になる日が近づきつつある。

(草木 智子)