パナソニックホールディングス(HD)の電池事業が成長の踊り場を迎えている。2024年3月期の当期純利益は米インフレ抑制法(IRA)による補助金が寄与して過去最高だった。しかし、電池事業を手がけるパナソニックエナジーは電気自動車(EV)販売の鈍化や品質保証問題もあり、IRA補助金を除く車載電池の調整後営業損益は187億円の赤字だ。今期も新工場の立ち上げ費用が膨らむことなどから2期連続で赤字となる見通し。電池事業への果敢な投資が業績を支える構図にはリスクをはらむ。
エナジーの今期の車載電池の調整後営業損益はIRA補助金を除いて170億円の赤字となる見通しだ。前々期である23年3月期(107億円の黒字)から一転、車載電池事業は2期連続で赤字となる見込み。既存工場の生産効率化などに取り組むものの、EV販売ペースの鈍化や、新工場の立ち上げ先行費用が重くのしかかる。それでも「中長期的には必ず(EVは)伸びていく」(パナソニックHD・梅田博和副社長執行役員・CFO)として、投資計画は継続する。
高容量でハイパワーの新型電池「4680」は和歌山工場で今年7~9月期に量産する。建設中のカンザス工場は25年1~3月期に既存電池「2170」の生産を開始し、需要に応じて段階的に生産量を増やしていく。フル稼働となる年間30㌐㍗時ペースとなるのは「26年後半から27年にかけて」(梅田副社長)と見ている。
エナジーはスバル、マツダに車載用電池を供給する契約を結んでいる。EV販売の鈍化で納入時期が関心事になる。梅田副社長は「供給先の判断になる」と前置きしつつ「24、25年度の計画には入っていない。30年に(まで遅れる)ということはないが、それぐらいのスパンで考えている」と説明する。
エナジーは、主に北米と日本で車載電池事業を展開しており、強力なライバルが多い中国は避けている。EV市場全体の成長率が鈍化し、収益率も悪化している中で大型投資を継続するのは、エナジー製の電池がIRA補助金の支給要件を満たしており「米国では(エナジー製の電池の)コスト競争力は最強で、生産能力分ははけるだろう」(梅田副社長)と見ているためだ。
ただ、この投資によるIRA補助金がパナソニックHD全体の業績を支えていることも無視できない。パナソニックHDの24年3月期の調整後営業利益は868億円。エナジーの営業利益888億円が大きく寄与した。エナジーのIRA補助金を除く営業利益は20億円にとどまる。
EV市場の先行きが不透明となったことから、電池投資はパナソニックHD全体の業績にも影響する。同社は、補助金とEV市場の回復に期待し、車載電池の生産能力を増強し続けるという賭けにでる。
電池事業は投資から回収までの期間が長く、投資額自体も大きい。薄利多売のため、電池工場は24時間フル稼働だ。EVの売れ行きが鈍ったり、納入先がEVの発売時期を見直せばたちまち収益が悪化する。また、EVに否定的なドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、IRA補助金制度が見直される可能性もある。果敢な経営判断の結果は数年後にも明らかになりそうだ。
(編集委員・野元 政宏)