SOLIZE(宮藤康聡社長、東京都千代田区)は、同社の3Dプリンターによる樹脂部品がトヨタ自動車「レクサス」の純正オプション品に採用されたことを明らかにした。3Dプリンターによる製品が日本の自動車メーカーの新車部品に用いられるのは初めてという。自動車業界では今後、EV(電気自動車)を含めたさまざまな車両の混流生産が進むとも考えられる。金型と比べた利点や開発スピード、製造の自由度などから、3Dプリンターの活用が広がる可能性もある。
レクサス「LC」の自動変速機(AT)用オイルクーラーダクトに採用された。このダクトは、フロントバンパー開口部から取り込んだ空気を導き、変速機油を効率的に冷やす。サーキット走行を意識したオプション部品だ。3Dプリンターによる部品はすでに独フォルクスワーゲン(VW)などが内製で用いているが、サプライヤーが供給する例は世界的にも珍しいという。
SOLIZEは、大和工場(神奈川県大和市)に量産ラインを新設し、HP製「ジェットフュージョン」プリンター2台で部品を製造する。トヨタが求める品質などの要求性能を満たすため、材料や製造工程などについて、数年かけて協議を重ねてきたという。生産終了車の補給部品を「ヘリテージパーツ」として供給する実績も生かした。
金型を使った射出成形は同一製品を安価に大量生産できるが、保守管理や保管を含めた金型のコストがかさむ。3Dプリンターは金型を必要とせず、少量生産品に向くため、自動車業界でも試作や競技用車両など「1点モノ」と呼ばれる部品で使われている。
複雑な3次元形状が実現できる自由度の高さや、少なくとも数カ月はかかる金型の製作期間が要らず、リードタイムが短い利点もある。
自動車業界では、デジタル技術の進展やパワートレインの多様化とともに、混流生産の度合いが高まっていくとみられる。同社は「金型で作る樹脂部品には限界が来るのではないか」とみる。
3Dプリンターによる部品製造は、二酸化炭素(CO2)排出削減につながる可能性もある。「LC」用オイルクーラーダクトの場合、生産数量などから金型を使う場合と比べて温室効果ガス排出量を4割ほど減らせたと同社は試算する。今後は、ライフサイクル全体でのCO2排出量を算定するサービスを組み合わせて提供することも視野に入れる。材料の管理、検査に人工知能(AI)も活用し、生産効率を一段と高める考えだ。
日本能率協会総合研究所(譲原正昭社長、東京都港区)によると、樹脂3Dプリンターの世界市場規模は2026年度に1430億円と、20年度の倍以上に成長する見込み。金属3Dプリンター分野でも、日本ミシュランタイヤが太田サイト(群馬県太田市)内の設備を地元企業に開放するなどの取り組みが始まっている。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に代表されるさまざまな環境変化に直面する自動車の生産現場で、3Dプリンターが活躍する余地は今後も広がりそうだ。
(中村 俊甫)