三菱自動車との協業で電気自動車(EV)販売を7月に開始したヤマダデンキ(上野善紀社長、群馬県高崎市)が、本格的な拡販に向けた足場づくりを進めている。まずは法人客を中心に軽EVを提案する中、社員が実際に車両を使用することで二酸化炭素(CO2)削減効果やコストメリットをデータ化する実証実験を行っている。軽EV販売のノウハウ獲得では登録販売店契約を結んだ東日本三菱(長田昭夫社長、東京都目黒区)と連携する。今後、EVと一戸建て住宅をセットにした新商品の投入を控えるなど、従来の新車ディーラーとは異なる〝飛び道具〟を用意する一方、市場のEV需要を見極めようとする慎重な姿勢も見せる。新たな需要の創出に向けて足場を着々と踏み固めている。
現在、軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」と軽乗用EV「eKクロスEV」を神奈川県と埼玉県の5店舗で取り扱っている。各店舗は中古車販売を手掛けているため、車両販売にも一定のノウハウを持つ。さらに、法人営業向けのチームもあり、軽EVの拡販に向けた基本的な体制が整っている。各店舗は顧客へのアプローチを始めており、すでに約800社と接触したという。
ヤマダデンキにとって三菱自との協業は2回目となる。2010年頃の前回の協業ではEV「アイ・ミーブ」を取り扱ったが、その時点ではまだ新車市場にEV需要が生まれていなかった。アフターサービス網での連携がうまくいかなかったこともあり、2社の協業は自然消滅した。
前回の協業から約13年が経ち、EVは普及期に突入した。これに加え、社会全体の環境意識が大きく進歩したことも再協業を後押しした。中小規模も含めてすべての事業者にCO2削減が求められる時代に変わった。ヤマダデンキは軽EVの取り扱いを開始した狙いの一つに「顧客の脱炭素化の支援」(経営企画室)を挙げる。
軽EVのCO2削減効果をより具体的に顧客に説明するために、EVを販売する5店舗にミニキャブ・ミーブを配備した。同車を日常業務で使用した際、走行距離や電力消費量といった各種データを収集している。これらのデータを内燃機関車の同一データなどと比較することで、EVのメリットを顧客に定量的に示す方針だ。
収集するのは環境関連のデータだけではない。EVの維持費に関する情報もまとめている。また、社員が実際にEVを使うことで「航続距離への不安が払しょくされ、顧客に自信を持って勧められるようになった」(同)といった効果も出ている。
EVの提案スキルの向上にも取り組む。ヤマダデンキに車両を卸す東日本三菱の協力を得て、軽EVの商品知識や販売ノウハウに関する研修を7月から実施している。蓄電池としての機能も持つEVは運用面でも内燃機関車と異なる知識が求められる。参加した法人営業スタッフはEVのセールスポイントなども学んでいるという。
ヤマダデンキはEVを単体の商材と捉えていない。この点が従来の新車販売との大きな違いと言える。実際、EVは生活に必要なエネルギーをすべて電気で賄う「電化住宅」を構成する一製品という位置付けだ。将来的には一戸建て住宅と軽EVに、車両と住宅で電力を融通できる設備「V2H(ビークル・ツー・ホーム)」や太陽光発電システムをセットにした複合商品の投入も予定する。
軽EVの販売開始を機に従来の新車販売に収まらない大きなビジョンを描く一方、足元のEV需要の見極めも怠らない。当初、販売店舗を年内に5店舗から11店舗に増やす計画を公表していたが、「既存の5店舗の業績を踏まえ状況に応じて拠点を拡大する」(同)方針に切り替えた。市場のEV需要を踏まえつつ、販売規模の拡大を進める意向だ。
(舩山 知彦)