自動車部品の大半が輸入品だった1930年に自動車用バルブコアの国産化を目指した創業者・小川宗一氏のひ孫にあたる。トヨタ自動車で生産管理や生産調査に携わり、トヨタ生産方式(TPS)の考え方や「カイゼン」の楽しさと難しさを体感した。「基礎から学んで自分の手で実践するなど、良い経験をさせていただいた」と振り返る。

 太平洋工業でもカイゼンに注力し「皆と一緒に考えて現場の姿かたちが変わるのを見たり、想像した以上の結果が出た時はうれしい」と笑顔を見せる。東大垣工場(岐阜県大垣市)の隣接地に予定する新工場では「過去の延長ではなく、将来を見据えてどういう工場であるべきかを考えた」と、食堂の位置に至るまで働きやすいレイアウトにこだわったという。プレス部品のほか、超ハイテン材の生産性向上を兼ねた金型工場、新事業を含めたR&Dセンターなどの新棟を11月以降、順次稼働させる。

 2018年に米シュレーダーグループのバルブ事業を取得した際、最終段階で交渉決裂の危機に直面したが、「今を逃したらもうない」と、帰国直前の相手方を宿泊先まで訪ねて契約をまとめた。買収により世界シェアが50%に跳ね上がっただけでなく、開発拠点や取引先も増え、各国の技術トレンドも把握できるようになって電気自動車(EV)向け電動膨張弁などの新規受注にもつながった。

 4月に社長に就任し、中長期経営構想と中期経営計画を発表した。「(就任後の)数カ月でも自動車業界の環境変化がかなりあった」と話す。今後もEV向けを含めた新技術の開発に取り組み、こうした変化にタイムリーに追随していく。

〈プロフィル〉おがわ・てつし 2001年同志社大学商学部卒、05年トヨタ自動車入社。11年太平洋工業入社、同年執行役員。14年取締役常務執行役員、18年取締役副社長、21年代表取締役副社長コーポレート企画センター長などを経て、23年4月から現職。1978年8月生まれ、44歳。岐阜県出身。趣味は読書とドライブ。

(堀 友香)