これから就職活動を始める学生向けに、ホンダが新たな取り組みを始めた。自己分析や企業研究の進め方といった就活の基本をオンラインで教え始めた。こうした企画は大学や就活サイトで一般的だが、学生を採用する側の大手企業が実施するのは珍しい。必ずしも採用に直結しない活動を始める背景には、ホンダが二輪や四輪から、より幅広いモビリティに業容を広げ始めたことがある。
「就活準備プログラム」として、再来年の春以降に卒業する学生向けに今年6月に初めて開催し、7月までに計3回実施した。採用サイトなどで告知したところ、1開催当たり平均で500人以上が参加したという。
内容は就活そのものの説明だ。入社2年目のエンジニアのエピソードも交え、自己分析の重要性や方法論、その上で自分に合った会社をどのように見つけるのかをキメ細かく伝授した。
ホンダの三厨敬祐・人事部新卒採用グループリーダーは「ホンダに入らない人も含めて学生と企業のミスマッチを防ぎたいと考えた」と開催の理由を語る。厚生労働省の発表では、就職後3年以内の離職率(事業所規模1千人以上)は24・7%。このうち半数近くは退職理由に「会社や仕事が自分に合わなかった」を挙げた。民間調査では、入社前の内定後辞退率も50%程度あるとされる。三厨グループリーダーは「福利厚生や待遇だけではなく、自分の意思で自分に合った社風を持つ企業を選んでもらいたい」と思いを語る。
学生のキャリア教育が一義的な目的だが、ホンダの採用戦略上の狙いもある。1つ目は母集団の形成だ。自動車業界では、電動化やソフト領域で特にエンジニアの必要数が増えている。一方で学生の就職志向は昔よりも自動車業界以外に向く傾向にあると言い、必然的に人材採用の難易度は上がる。
ホンダの場合、24年卒は23年卒に対して約3割増と採用数は増やせている。ただ「会社が求めている人材の数はもっと多い」(三厨グループリーダー)。このため、まずはホンダに関心がなかった学生と接点をつくることで、これから始まるインターンシップなどへの参加につなげていきたい考えだ。
三厨グループリーダーは「今はホンダに関心がない人だからこそ活躍できる場所がこれからのホンダには増えてくる」とも語る。二輪や四輪、小型ジェットなどに加え、マイクロモビリティや遠隔操作ロボット、さらにはロケットと、ホンダの開発領域は従来にも増して広がっている。クルマ好きやホンダブランドにこだわりのある人材だけではなく、多様な人材を集め、モビリティメーカーへの転身へとつなげていく狙いだ。