上場廃止リスクを回避し、課題解決に集中する

 東京証券取引所のプライム市場に上場する自動車関連メーカーが相次ぎスタンダード市場へ移っている。今仙電機製作所やトヨタ自動車系の中央発條は5月、スタンダード市場への移行を表明した。両社はプライム市場の上場維持基準のうち「時価総額100億円」を満たしていない。このまま2025年3月期までに基準を満たせないまま上場廃止になるリスクを回避する。このほか、内燃機関向け部品を手がける北川鉄工所、路面清掃車などを製造する豊和工業も移行する。各社は上場廃止を確実に回避し、それぞれが抱える経営課題の解決に集中する構えだ。

 プライム市場への上場を維持するには、流通株式数や時価総額など複数の条件を満たす必要がある。「グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」と位置づけられるプライム市場は、国内外の投資家に信頼性をアピールし、幅広く投資を呼び込めるなどのメリットを持つ一方、上場コストもかかる。今仙電機製作所の櫻井孝充社長は、時価総額の基準達成について「われわれとしても手が届かない位置ではない」としつつ「希望退職者の募集など業績改善に手を打っている。数年はそちらに集中する」と語った。

 中央発條は、27年度を最終年度とする中長期経営計画の策定と合わせスタンダード市場への移行を発表した。小出健太社長は「安定して時価総額100億円をクリアするためにも、(計画の最終年度の)27年度までは、目標達成に注力したい」とし、再びプライムへの指定替えを目指す可能性も示唆した。

 足元では、半導体供給不足の緩和による自動車生産台数の回復や取引価格への転嫁など明るい材料もある。一方で原材料・エネルギー費の高止まりや人手不足は続き、電動車シフトに伴う事業ポートフォリオの見直しや、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などの関連投資も待ったなしだ。

 スタンダード市場への移行は自動車部品業界に限った話ではない。東京証券取引所によると、プライム市場の維持基準に適合しておらず、適合に向けた計画書を開示している企業は昨年末で270社ほどある。大和総研によると、5月末までに31社がスタンダード市場への移行を表明した。上場廃止を確実に回避することでステークホルダーの理解を得て、収益改善や事業ポートフォリオの転換に経営リソーセスを集中させる。こうした動きは、自動車業界で今後も続く可能性もある。