三菱自による新中計発表会見

 「この3年間、三菱自動車自身が変わっていかなければならないという挑戦、そして新しい時代に対応していくため、経営基盤を強化しなければならないという挑戦を成し遂げる」(三菱自・加藤隆雄社長)―。三菱自が発表した2023年度から始まる中期経営計画「チャレンジ2025」は、一部でルノー・日産自動車アライアンスとの連携を推進するものの、電動化などで独自の戦略を打ち出すものとなった。日産とルノーの出資比率見直しでアライアンスの今後が不透明な中、三菱自は単独でも生き残れる道を模索しようとしているように見てとれる。

 三菱自は、販売台数から「販売の質」を重視する戦略に転換したことや、コロナ禍などの影響で業績が悪化し、21年3月期は最終損益が3123億円の赤字を計上した。しかし、三菱車を受託生産していた子会社のパジェロ製造を閉鎖するなど、生産能力を削減するとともに、早期希望退職制度で人員を削減、固定費を2年間で20%以上削減した。円安による為替差益の追い風もあり、スリム化したことで今期の最終利益は1400億円と過去最高益となる見通しだ。

 販売台数を大きく伸ばしていない中、業績が好調に推移していることに、三菱自は自信を深めている。そしてこの収益力をベースに、三菱自が独自路線に打って出ることを示しているのが、今回公表した中期経営計画だ。

 脱炭素社会に対応するため、自動車メーカー各社は電気自動車(EV)シフトを本格化している。三菱自も電動化を推進する方針を掲げており、30年に電動車販売比率50%、35年に100%とするものの、EVだけの販売比率は示していない。26年に欧州でのEV販売比率78%、米国で40%とするなど、EVを重視している日産や、EV専門会社を分社化するルノーと戦略にズレが見られる。

 また、三菱自は今後の新型車投入計画でも5年間で16車種を投入するうち、電動車は9車種にとどまる。しかもこのうちの2モデルはアライアンスから調達するEVだ。注目されるのが新型「エクスパンダー」と新型MPV、2列シートのSUVの3モデルにハイブリッド車(HV)を設定することだ。HVは三菱自のプラグインハイブリッド車(PHV)向けに開発してきたシステムを応用してストロング・ハイブリッドシステムを開発して搭載する。

 三菱自がEVを重視している日産、ルノーと微妙に路線が異なるのは、三菱自の主力市場が東南アジア諸国連合(ASEAN)などの新興市場が中心だからだ。三菱自の長岡宏副社長は「30年でもASEANにEVが広がるとは考えていない。HVの割合が多い」と読む。ASEANの中でも、タイやインドネシアなどで政府がEVの普及を推進しているものの、充電インフラは整っていない。加えて、これらの地域は台当たり単価が低く、高価なEVが普及するには障壁がある。

 ASEAN市場や、ASEAN向けモデルを生かせる中南米・中東・アフリカ市場は、フレームベースのピックアップトラックなどの需要も強い。三菱自が成長を見込む地域は、先進国市場と特性が異なるだけに、アライアンスの活用も限られる。

 中期経営計画では、新型車開発を凍結した欧州市場で、ルノー、日産からのOEM(相手先ブランドによる生産)車の調達や、北米にある日産の経営資源の活用、電動車向けバッテリーの調達などのアライアンス事業も掲げる。また、自動運転などの先進技術に関しては、アライアンスを頼りにしている面もある。

 ただ、三菱自はルノーから分社化するEV専門会社「アンペア」への出資を求められているが、検討を続けている。三菱自の加藤社長は「重要なのは(出資によって)何のメリットがあるかが明確になっていない。検討して方向性を決めていきたい」と説明、消極的にも見える。アライアンスと微妙な距離感をとる三菱自は、独自の路線で生き残る賭けに出る。

(編集委員 野元政宏)