働き手と企業の関係は終身雇用が主流だった以前の状態から、流動的でそれぞれの価値を互いに評価する風潮が強まっている。ヘッドハンティングや採用コンサルティングを手掛けるプロフェッショナルバンクは、日本の自動車産業や人材市場をどのように見ているのか。自動車業界を担当する松澤雅己執行役員に聞いた。

(吉田 裕信)

[[CASEやADASで不足目立つ]] ―日本の自動車産業に対するプロフェッショナルバンクの見解は

 「CASEやADASといった次世代技術が急速な進展を遂げる中、日本はやや遅れをとっている感がある。日本は他の自動車先進国に比べてこれらの分野の人材不足が目立つ。加えて希少な人材の能力を十分に生かしきれていないケースも見られる。採用に関しても開発部門のニーズが高く、われわれとしては今後、ITをはじめとする異業種からの人材流入を促し、自動車業界の需要に応えていきたいと考える」

 ―自動車産業においても定着率の課題がある。ハンティングされた人材の定着率はどうか

 「極めて高い。ハンティングで移られた方はほぼ辞めないと言ってもよい。なぜなら一般的な転職とは違い、そもそも転職意思のない方がわれわれの声掛けをきっかけに、その企業の理念や方針に共感し、現職以上の働きがいや将来性、権限に魅力を覚えて移籍されるので、ほとんどの場合、ウィン・ウィンの関係を築いている」

 「対して、現状に不満を抱いて辞める転職者は、新しい職場でもそれを繰り返してしまう傾向がある。さらに、転職したいという思いから、面接の場で自分を過大表現し、企業にとっては採用したものの期待していた能力とは異なるといった雇用のミスマッチが起こる」

 ―採用環境や人材市場の状況は

 「約4500万人いる日本の労働市場で、能動的に転職活動を行っている割合は10%にも届かないと言われている。そのうち大半は営業や管理部門系の人材で、いま需要の強いエンジニアを獲得しようとしてもかなり難しい」

 「ところが、残りの9割強の方々に転職の意思がないかと言えば、必ずしもそうではない。新卒からずっと同じ会社で働いてきて、労働者としての自分の市場価値に気づいていない方がたくさんいる。われわれの接触で初めてそれを知るケースが実に多い」

[[働き手に自身の価値把握機会を]] ―プロフェッショナルバンクの強みは

 「まさに働き手に自身の価値を把握する機会をつくり、隠れた人材や彼らの能力を顕在化させることだ。企業のニーズを満たす人材がどの業界、企業、部署にいるのかを一から調べて探し出す。潜在能力を掘り起こし、日本の自動車産業がリードを維持できるよう取り組みたい」