ちらつく過去の失敗

マツダはバルブ経済期の1989年に販売チャンネルを5系列展開したが、この時に「MS-9」「MS-6」、「MX-6」「ユーノス800」など、車名に英数字を使うモデルを数多く国内市場に投入した。メルセデス・ベンツやBMWなどの海外高級ブランドは、モデル名に社名と英数字を使うケースが多いが、国内市場ではペットネームを付けるのが一般的だ。

マツダは当時、5チャンネル展開に合わせて兄弟車、姉妹車を含めて短期間に数多くの新型車を投入。しかも日本人に耳慣れない英数字の車名を使用したことから営業員が車名を覚えられないほど混乱、新型車を投入しても市場から認知されないまま販売が低迷し、姿を消していった。

マツダは、2012年の「CX-5」から新世代商品群として先進的な独自技術「スカイアクティブ」技術を搭載するなどしてラインナップを一新してきた。過去の反省もあって新世代商品では、新たに展開したクロスオーバーSUVの「CX」シリーズを除いて「デミオ」(海外名=マツダ2)「アクセラ」「アテンザ」(マツダ6)「ロードスター」(MX-5)と、日本市場では従来通りのペットネームで展開してきた。

新世代商品群のモデルは「走り」や「デザイン」が高く評価され、販売は好調に推移した。以前のマツダの国内ディーラーで常態化していた値引きに頼る販売手法から、値引きを抑える「正価販売」への脱皮を掲げてきた。加えてマツダは、国内販売ディーラーで老朽化した店舗などで、「黒」を基調とした高級感のある「新世代店舗」への衣替えを進めてきたこともあって、マツダの国内でのブランド価値は徐々に向上してきた。

ブランド戦略を進めるマツダにとって、看板商品であるクルマの名前に、会社名と、上級ブランドのイメージのある英数字を使用することは悲願だ。先行したSUV「CX」シリーズの車名は英数字で分類しているが、販売が好調に推移したこともあって各モデルとも認知されている。マツダでは、ブランド価値の向上で、セダン系のモデルに英数字を使用しても通用すると判断、数字を使った車名の浸透に再び挑む。

ただ、不安もある。SUVのCXシリーズと違って、国内のセダン/ハッチバック市場は縮小している。また、セダン系ユーザーは年齢層が高い傾向にあり、数字の車名には抵抗がある可能性もあるからだ。


マツダは5月9日に発表した中期経営方針で「ブランド価値向上への投資」と「ブランド価値を低下させる支出の抑制」を掲げた。規模の小さいマツダが厳しい競争を生き残るには、独自のブランドを確立するしかないと見ているためだ。マツダではアテンザやデミオの次期モデルの車名については「決めていない」としている。


マツダ3の車名が市場に浸透することは、マツダのブランドがさらに一段階上がることを意味すると考えるマツダ。マツダ3の車名は認知されるのか、ブランド価値の真価を問われることになる。