○…人は誰でも多面的な存在だが、たいていはある側面だけを見て、また見せて日常を送っている。中世文学を専攻する国文の助教授が講義の合間に丸谷才一氏の話をするのを、たぶんつまらなそうに聞いていたのは、和歌には火遊びをするほどの興味しかなく、小説家としての丸谷氏しか知らなかったせいである。人物であろうと事物であろうと、人は無意識の精神的な経済観念に従っ…